1-12:地獄同盟
きっともう、この家に住むことは出来ない。
葬儀が終わった後、タケユキのお母さんは警察から話を聞かれるなどして、大変な状態が続いていた。僕のごはんもまともに出してくれないことも増えている。
「とりあえず、親戚の人が僕を引き取るって」
いつもの公園に行き、ミズナちゃんに報告する。
場所は隣にある市。歩いてこの公園には来られなくなるけど、ミズナちゃんとは今後も顔を合わせるくらいは出来るはず。
「それでさ、これからのことを決めたいんだ」
僕は、タケユキを手にかけた。多分、ミズナちゃんも気づいている。
「僕の一番の望みは、おばあちゃんに会うことなんだ。ミズナちゃんに会った日、僕はもともと死ぬつもりだった。死んで地獄に行けば、おばあちゃんに会えると思って」
「うん」とミズナちゃんは頷く。
「でも、それは無理なんだよね。僕がここで死んでも、ミズナちゃんみたいに幽霊になって終わる。天国や地獄に行くにはどうすればいいか、理屈がよくわかってない」
「そうだね」とミズナちゃんが僕に手を伸ばす。
今日は天気がいい。四月の半ばで、空気もポカポカとしていた。
おばあちゃんが隣にいない。でも、ミズナちゃんと過ごす時間も悪くなかった。
「だから、まずは知らないといけないね。おかしな幽霊がいる理由。それがわかれば、僕たちの欲しい答えも見つかるかもしれない」
今度は、無言で頷かれた。
「おばあちゃんについて、少しだけわかったことはある。でも、おばあちゃんがどうして死んだのか、呪いが関わってるのか、そこはまだわからない。もしも、誰かが呪いをかけたんだとしたら、僕はそいつが誰なのか知りたいんだ」
「それで、どうするの?」
質問され、僕は少し黙りこむ。
夜道の光景が浮かぶ。電灯の部品が外れ、タケユキの上に落下していった。
「許さないだろうね。もし、誰かがおばあちゃんを殺したんなら、絶対にただでは済まさない。そいつが生きている誰かだろうが、死んだ幽霊だろうが関係ない。必ず、そいつも地獄に連れて行ってやる」
これを、なんて呼ぶのかは知っている。
そう、『復讐』だ。
おばあちゃんを殺した奴を見つけたら、必ず償いをさせてやる。
「その後で、僕も地獄に行く。そして、ずっとおばあちゃんと一緒にいる」
「それが、パルちゃんの願いなんだね」
ミズナちゃんは両目を閉じ、しみじみと頷いた。
「うん。ミズナちゃんはどうしたい?」
「わたしも、お母さんと一緒がいい。だからわたしも、地獄でいい」
「じゃあ、仲間だね」
「うん、仲間だね」
これで、僕たちの目的は一致した。
幽霊の秘密を暴き、地獄へ行く方法を探す。
ミズナちゃんが小指を差し出す。触れられない指に対し、僕は前足を近づけた。
「今日から僕たちは、『地獄同盟』だ」
新しい飼い主の名前は、テツヒロとエツコ。
二人の車に乗せられて、僕は隣の市にある家に行く。「わたしもパルちゃんの傍にいる」と、ミズナちゃんもこっそりと車に乗り込んだ。
二階建ての真っ白な家。前に猫を飼っていたのか、僕が出入り出来る小さな戸口も付けられていた。
うん。悪くない環境だ。
あとはここで、ミズナちゃんと一緒に秘密を探る。
僕はソファの上でくつろぎ、昼間になると外へと探索に出かける。道をまだよく覚えていないから、最初からあまり遠出はしない。
「ミズナちゃんも、これからはあの家で暮らしなよ」
こっちに来てから、ミズナちゃんは遠慮して近くの公園に身を寄せた。今までもずっと、夜中は公園で一人過ごしていたという。寒さも感じないだろうけれど、やっぱり屋根のある場所の方が過ごしやすいだろう。
「うん。そうしようかな」
ミズナちゃんはほんのりと微笑み、僕の提案に頷く。
じゃあ、決まりだ。
これでもう、寂しくない。
そんな風に思いながら、僕は一緒に家へと帰る。
その先で、待ち構えているものがあった。
体が半透明。生きている人間じゃない。
ブルーのジーンズ。上には緑色のシャツ。そして顔には眼鏡。
意地悪そうな顔をしていた。それが忌々しそうに僕を見て、ずっと玄関の前で仁王立ちしている。
「よお、クソ猫」
僕と目が合うと、相手は低い声を出す。
「随分と、楽しそうじゃねえか」
半透明のタケユキが、僕を睨みつけていた。
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