1-5:どうして呪いはかかるのか

「これはね、『実験』だったみたいなの」

 話を終えて、ミズナちゃんは肩を落とす。


 今もこの神社の中には、くたびれた男の姿がある。灰色の長袖シャツを着て、下は緑のズボン。顔はずっと俯いていて見えない。


「隆太は、どうも最初から色々と知っていたみたいなの。それでわざと、わたしたちをこの神社に来るようにした」


「どういうこと?」


「ねえ、パルちゃんはどうして、幽霊のせいで人が死ぬと思う?」

 忌々しそうに、ミズナちゃんは男を睨む。


「わからないよ、そんなの」


「『呪いがかかったから』だって、隆太はその後に話してたの」

 呪い、と心の中で呟く。


「こういう話があるの。『呪い』っていうものが、どうやって人にかかるかって。それはね、『自分は呪われてしまった』って、自分自身が思いこむことが必要なんだって」

 なんだか、難しそうな話だ。


「自分は呪われたって一度思いこむと、あとはどんどん、悪いことが寄ってくるんだって。『怖い』とか『嫌だ』とか、そういうことを思った瞬間に、自分の中に『悪いもの』との『御縁』が出来てしまう。そうして、事故に遭ったり病気になったり、悪いことが起こる」


「そういう、ものなの?」


「多分、そうなんだと思う。そしてね、隆太の奴はそれを実験しようとしたみたいなの。幽霊と関わるっていうことも、『祟られそう』とか、『呪われそう』とか、不安な感じにさせられるでしょ? だから、幽霊を利用すれば人に呪いがかかるんじゃないかって、試してみようとしたらしいの」


「本当なの?」


「うん。実際に話してるのを聞いたから。幽霊になってから、わたしは隆太のところに行った。それで、人に話してるのを聞いたの。心霊写真を使って、幽霊がいるってことを人に伝えたらどうなるか。幽霊のいる現場でその写真を見たら、幽霊との『御縁』が生まれて呪われるんじゃないか。それを試したくて、わたしたちをこの場所に来させた」


「それは、最低じゃないか」


「わたしもそう思う。でも、本当にみんな死んじゃうとは思わなくて、怖かったって泣いてるのを見た。でも、そんなの絶対に許せない」

 そこまで言って、ミズナちゃんは首を振る。


「とりあえずね、それが『法則』みたいなの。万が一、心霊写真を見るとかして、『その場所』に幽霊がいるってことに気づいてしまう。そして、自分が気づいたことを幽霊にも察知される。その瞬間に『御縁』が生まれて、幽霊からの『呪い』にかかってしまう」


「それで、人が死ぬ?」


「多分。そういうことなんだと思う。隆太の奴は、そんな風に人に話してた」

 今、そいつはどうしているんだろう。


「隆太はもう、中学生になったみたい。わたしが幽霊になってから、もう四年が経ってるから。最初の内は恨めしくて、あいつの家の方に行ってたけど、今はもう顔も見たくない。だから、今どうしてるのかは知らない」

 僕の心が伝わったのか、ミズナちゃんが話をする。


「他の子たちはどうしたの? ミズナちゃんのお母さんは」

 そうだ、と思いつき、質問を発する。

 他の子供たちも死んだなら、同じく幽霊になっているはず。


 でも、ミズナちゃんは首を振った。


「みんな、この町にはいない。すぐにお葬式になって、ダイスケ君もトモカちゃんも、きっとお空の上に行ったんだと思う」


「そういうものなの?」


「多分、そうだと思う。『天国』とか『地獄』っていうものが、この世界にはあるんだよ。そしていい人は天国に行って、悪い人は地獄に行く。それがきっと『普通』なの」


 なのに、ミズナちゃんはここにいる。

 それなら、と考えてしまうことがある。

 僕には今、幽霊を見ることが出来ている。こうしてミズナちゃんと話も出来ている。


 だったら、『おばあちゃん』はどうしているだろう。

 もしかしたら、今も町のどこかにいるのかもしれない。


「ちなみにね、お母さんは『地獄』に行ったんだ」

 ポツリと、ミズナちゃんは言葉を付け足す。


「わたしのこと、殺しちゃったせいなのかな。お母さんの幽霊、しばらくの間はぼんやりと近くに立ってたの。でも、警察の人が来てわたしたちの事件を調べた後、お母さんは急に、地面の中へと呑み込まれていった」


 僕は、何も言えなかった。

 地獄。おばあちゃんが話していた場所。


「ちなみにね、パルちゃんのおばあちゃんのこと、わたしは知ってる。三山みやま千鶴ちづるさんって名前の人だよね」


「うん」と僕は頷く。


「幽霊を探しても無駄だよ。わたし、パルちゃんのおばあちゃん、はっきり見たから」

 僕の方へ手を伸ばし、いたわるような声を出す。


「パルちゃんのおばあちゃん、地獄に落ちていった」

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