おやすみ映画館

卯月

映画が見たいだけなのに

千穂ちほ、聞いてよぉ」

 三連休の中日。大学時代の友人・朋美ともみが、珍しく電話をかけてきた。隣の市に住んでいて、SNSではよくやりとりするが、声を聞くのは久しぶりだ。

「あたし今、映画の神様に呪われてるかも……」

「何それ、そんな神様いるの」

 声の調子から、凹んでいるのがよくわかる。申し訳ないけど、あたしは、ちょっと笑い気味。

「最近公開された、何年か前の映画の続編が見たくて、映画館のサイトで上映時間を調べようと思ったのね。おととい」

「うん」

「そしたら、うちの市内の映画館が改装中で閉まっててさ。ちょっと遠くなるけど違う映画館まで行くことにして、予約もとって」

「うんうん」

「昨日、電車乗って、最寄り駅で降りて、映画館の近くまでは行ったんだけど、見られかったの」

「――何で?」

「近所の別の建物で、火事があったんだって。あとで調べたら、映画館自体は無事だったっぽいんだけど、とにかくそっちの方向に近づけなくて」

「ああ、夕方のニュースでやってた火事か……」

 昨日の日中、県庁所在地の繁華街で火事が起きた。幸い、死傷者は出なかったそうだが、ニュース映像では大騒ぎになっていた。そうか、朋美はあの近くにいたのか。そりゃ大変だ。


「でまぁ、諦めて家に帰ったわけ。夜、家で、見に行く予定だった続編映画の、前作のブルーレイでも見ようと思ったのよね」

「うん」

「プレーヤーの電源入れた瞬間、マンションごと停電」

「――は?」

 意味がわからない。

「ちょうどそのタイミングで、近所で大木が倒れて、電線に接触したらしいわ……停電自体はもう復旧してるんだけど、プレーヤー壊れたみたいで全く動かない」

「……それは、確かに呪われてるかもね……」

 あたしも、だんだん真顔になってくる。


「それで、千穂に頼みがあるんだけど」

「何?」

 嫌な予感。

「今夜泊めて。で、千穂んでブルーレイ見させて」

「泊まるのはいいけど、映画は禁止」

 こっちにまで呪いを持ってくんな。



〈了〉

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