恋愛不適合者達の煮詰まった関係性を綴った恋の歌

ALC

第1話恋愛不適合者でも恋はしたい!

流行の恋歌を耳にする度…

僕だけが共感できない閉塞感を感じていた。


もしかしたら世界の何処かには他にもそんながいたかもしれない。


いいや…違うな。

かもしれないと言う曖昧な可能性の話ではない。


そう…僕らは出会ってしまったんだ。

そんな価値観を共有出来てしまうに…。






「いや…だから!

そんな毒を撒き散らかす様な尖った歌詞はやめようって言ったよな!?


修正するのに一月丸ごとあげただろ!?


どうして以前の歌詞よりも…

言い方は悪いが…酷くなってんだよ!


これじゃあ万人受けしないし聴く人を選ぶ曲になるだろ!?


俺達の方向性を理解していないのか?」



バンドリーダーのフロントマンは俺が作詞した歌詞を目にして苦々しい表情を浮かべる。

今にも歌詞を綴った紙を床に叩きつける勢いで…

激しい剣幕で次第に怒りの表情へと変化していた。


ドラムスの筋肉質の男性は僕らのいつものやり取りに嫌気が差したのか。

練習用のレンタルスタジオの一室から出ていってしまう。


同じ様にリードギターの男性もヤニ休憩と一言残して部屋を後にした。


レンタルスタジオの一室に残っているのは…


作詞作曲担当でベースの僕。

キーボード担当の女性。

フロントマン兼バンドリーダーの男性。


キーボード担当の女性は何故部屋を後にしないのだろうか。

僕の頭の中には適当な疑問が浮かんでは消えていた。


簡単に状況を説明すると。


フロントマンの男性は作詞作曲担当の僕の曲全てが気に入らないようで…

自分が歌うにふさわしくないと主張しているのだ。


それが一月前の言い争い。


曲の全てにリテイクを言い渡されて。

そしてその言い争いから一ヶ月が経過して。

現在の言い争いと言う場面だった。


もう一つ説明するとしたら。

僕が適当に話を流している理由だが…。


それは至極単純明快な話だった。


このバンドに僕以外に作詞作曲が出来る人間が居ないから。

僕は自分の好きなように自由に振る舞っているのだ。



「もっと流行の歌を聴いて参考にしたほうが良いぞ!?

お前の曲は結局自己満足の領域を出ていないんだよ!

それに気付けないなら…!」



「お前はこのバンドにいらない!」



きっと彼が既の所で飲み込んだ言葉は概ねこの様なものだろう。


僕も薄々気付いていたのだ。

この陽キャが集まったようなキラキラしたバンドに自分は不釣り合いだと。


卑屈や自虐ではなく。

僕とは価値観があわない。


そう悟ってしまったのだ。



確かにきっと彼らにはキラキラとした流行歌とか。

ドキドキな恋歌とか。

美しく響く陽の者が作り歌い演奏する名曲が似合うだろう。


本当に自虐でも卑屈でもなく。

僕にそういった類の曲は作れないし似合わない。


もしも無理して作って…

それがヒットしたとして。


作詞作曲のクレジットに自分の名前が載っていたら…

きっと気付いた人は落胆するだろう。


僕が決してではないとすぐにバレるから。


そんなわけで僕は彼が言いたかった言葉を代わりに口にしようとして…。



「あんた何様?自分は作れないくせに文句だけは一丁前。

どうしても自分が歌いたい曲があるなら自分で作りなさいよ。


作ってもらった私達は文句言わずに練習してマスターするべきでしょ?


感謝も出来ないあんたが売れるなんて私は思わない。

自分に見合った曲しか歌いたくない?

本当に何様?


そんなに俺様気分でバンドメンバーに言う事を聞かせたいのであれば…

本当に自分で作詞作曲しないさいよ。


作ってもらった曲をまともに練習しない。

感謝もせずに文句ばかりは一丁前。


あんた…はっきり言うけれど…

何もかもなのよ。


それでフロントマンって…

向いていないからもう辞めたほうが良いわよ」



ここまで黙って聞いていたキーボード担当の女性は静かな怒気を彼に向けていて。

面食らっていた彼だったが…

しかしすぐに切り替えて何かを言いかけて…



「別にあんたと言い争う気は無いから。

私はこのバンドを今日で抜ける。


スタジオ代…置いておくから。

じゃあ…」



彼女はそれだけ言い放って。

自らのキーボードをケースにしまっていた。


彼女の唐突な罵詈雑言を受けて…

僕も彼も目が点になるような面食らうような思いだったことだろう。


しかし…

僕が今以上に面食らうことになるとは…

ここにいる誰も予想していなかっただろう。



キーボードをケースにしまった彼女はそれを背負うと扉の方へと歩いていく。

堂々とした歩き方に思わず逞しさを感じてしまう。


扉に手をかけて開け放った彼女は…

一度立ち止まって後ろを振り返る。


そのまま僕に視線を一度寄越して…



「あんたも一緒に来ない?こんな所で燻っている暇は無いんじゃない?

いつまでもここに居て腐り続ける運命さだめに抗わないって言うなら。

私は止めないけど。


あんたの自由だけど…

私はあんたの曲…嫌いじゃなかったわ。


バンドを去る前にちゃんと感想を伝えられて良かったわ。

じゃあ…」



彼女は名残惜しそうな表情を一瞬だけ見せて。

けれど踏ん切りがついたのか。

後ろ髪を引かれる思いを自らで断ち切ったのか。

彼女は扉の向こうの外の世界へと向かう。


僕は…思わずハッとして。

アンプからコードを抜いて…

ベースをケースにしまい…

荷物を纏めるとスタジオ代を置いて彼らに別れを告げた。



「すまん。僕もここを抜けるよ。じゃあ」



簡単に別れを告げると。

僕はスタジオの扉を開けて外の世界へと抜け出した。


外に出て彼女を探そうとしていると…



「良かった。来てくれて。あなたが私の期待以上の人で…」



先ほど出ていった彼女は外で僕を待っていてくれていたようで声を掛けてくれる。

僕は安心しきった表情を浮かべていて。

何かを抱いていたことだろう。



「私…紫金魚しきんうお。仲が良い人は金魚きんぎょって呼ぶわ。


さっきも言ったけど…

私は貴方の曲…嫌いじゃないの。


流行歌とも流行りのラブソングとも言えない。


でも歌詞の中にも曲調にも…

何処か底知れないパワーと言うか…何と言うか説明が難しいけれど。


とにかく私は共感して心が震えるのよ。

歌詞も曲も言葉に出来ないほど凄く良いと思っている。

だからあいつに否定されるのが堪らなくムカついていたの。


それでなんだけど…」



彼女はそこまで一息に捲し立てて…

最後の言葉を言う前に一呼吸して息を飲み込むと。



「良かったらこのまま私とバンドを組まない?

同じ価値観の人を二人で探して…


もちろん作詞作曲は今後も貴方。

新しく入るメンバーにもそれは了承してもらうし。

もう誰にも貴方の作る曲に文句は言わせない。


絶対に私が貴方の創作物を守るから…」



そんなの様な言葉を受けた僕は…

また性懲りもなく…

その誘いに乗るのであった。






ここから僕らはまた懲りずに恋に落ちていく。


多くの他人を傷つけて翻弄して振り回しても。

例え自分自身を傷付けることになっても。



今度こそを求めて…



僕達はを目指して…



今日も今日とて…

未だ見ぬ答えを探して…

を求め続ける旅に出るのであった。



これは恋愛不適合者達が織りなす恋の物語。


流行の恋歌の様な恋では無いけれど…


それでもきっと…

が僕らを今よりも大人に…


より大きな心を持った人間に…


器が大きく魅力的な自分に…

育てていってくれることを信じて…


他人の痛みや…

他人の傷を敏感に察知できるになれることを祈って…




次回へ…!

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