第七話
前の話はこちら(兵装さん)
https://kakuyomu.jp/works/16818093090944039209/episodes/16818093091002039344
「なぁ、石倉」
クリスマスの夜、そう言って私を見つめる倉岡さんの瞳には輝かしい光が宿っていて。その光は街のイルミネーションに負けず輝いていた。
そして、倉岡さんは降り積もる雪も気にせず私の前に膝をついた。そして、黒い小箱を私の前に差し出す。
心臓の鼓動がドクドクと早くなっていくのがわかる。自分ではわからないけれど、多分顔と耳も真っ赤だろう。倉岡さんの次の言葉を、期待してしまっている私がいる。――そして、倉岡さんは私のことをしっかりと見つめて、ゆっくり唇を開いた。
「お前が、好きだ」
――本当、に? 信じられない。言葉が出ない。どう、反応したらいいのかな。
倉岡さんは、私に言葉を重ねる。
「最初は、ただの後輩だった。ちょっとおっちょこちょいで、元気なただの女だとしか思ってなかった」
倉岡さんは、もう一度しっかりと私に視線を合わせる。
「……でも、引き寄せられたんだよ。お前の努力家な姿勢とか、かわいい笑顔とか。女なんて嫌いだったのに、石倉だけは違った!」
街一番のツリーが燦々と輝く。私たちの姿を照らすように。幸せへの道しるべを形作っていくように。
今、私はどんな表情をしているだろうか? 可愛くなんてないだろう。シンデレラのように一夜限りの素敵な魔法がかかっているわけでもない。倉岡さんに、私は釣り合わない。
――でも、倉岡さんは私がいいって言ってくれてる。その事実が、うれしくてうれしくてたまらない。
「俺に『幸せ』なんて訪れない。俺にできるのはそれを陰から支えることだけだって、ずっと思ってた。でも、石倉に会ってから俺にも光が見えた」
――私、倉岡さんの道しるべになれていたのかな? なれている気はしない。けれど――うれしい。心がじわじわと温まっていくのを感じる。固まっていた心がと置けていくのを感じる。
倉岡さんは一呼吸置くように白い吐息を口から出した。そして、ゆっくりと私の前に差し出していた黒い小箱を開ける。その中には、ライムグリーンの宝石が輝いていた。
「俺と、付き合ってください」
人生で初めての、告白。ライムグリーンの宝石は、イルミネーションの光までをもその身にまとい、キラキラと輝いている。
これは、夢? それとも現実? 現実感は、ない。夢だって言われた方が納得できると思う。でも、これが本当だったらいいって思ってしまっている私がいる。
倉岡さんの道しるべに、私以外の人がなるなんて絶対いやだ。
――彼が幸せになるときに、隣にいるのは私でありたい。
これが、『恋』……だろうか。幸せ、なのだろうか? あの時、この場所で感じた想いがさらに強くなっているように感じる。
――倉岡さんを、好きになっている自分に気づいた。
「……倉岡、さん」
まともな声を出せない。ほら、私。さっきまでお客さんと話していたでしょう? そのときの声の張り方は? 笑顔の浮かべ方は?
――私のままで、いいのかな? どんな私でも、倉岡さんは私を認めてくれるのかな? 怖い。私はまだ、あまり倉岡さんのことを知らない。
でも。倉岡さんは、いつも優しくて。支えてくれて。助けてくれて。
――信じてみても、いいよね?
「……私はっ」
倉岡さんと視線が合う。その目はやっぱりまっすぐで、どうしようもなくかっこよかった。いつの間に、私は倉岡さんのことをこんなに好きになっていたのだろう? 自分が制御できないぐらいに彼のことを想うようになってしまったのだろう? わからない。けれど、この気持ちはホンモノだ。
震える唇を――開いた。
次の話はこちら(つばささん)
https://kakuyomu.jp/works/16818093090944006885/episodes/16818093091086059737
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます