第三話

前の話

https://kakuyomu.jp/works/16818093090944039209/episodes/16818093090944985511


 学校とバイト先のアクセサリーショップと家とを行き来する日々が続く。つまらない。ほんとにどうすれば私は変われるのだろうか。

 雪はどんどん降り積もっていく。まるで、私の生き方みたい。

 自分で自由に動けなくて、溶けるのを待ってる。でも、なかなか溶けない。僅かな希望を信じて、私は今日も笑顔を浮かべる――。


「いらっしゃいませ」



 バイト終わりの駅前。街のイルミネーションは今日も輝く。

 どれだけ毎日が苦しくても、輝きを放ち続ける。眩しい。羨ましい。そう思ってしまう、自分が嫌い。

 まだ努力出来るのに、出来るはずなのに。理由をつけて全てから逃げる、自分が嫌いだ。努力が出来ない、自分が惨めだ。

 私の背丈の何倍もあるような、大きなツリーを見上げて息を吐いたその時だった。


「――石倉?」


 聞きなれた声がする。本当に思わず出た声、という感じだけれど。

 後ろを振り向く。そこには――。


「倉岡さん?」


 バイトの先輩、倉岡さんがいた。

 私の頭――何個分だろう? 分からないけれど、倉岡さんは背が高い。すぐにわかる。

 さぁ、こういう時はどういうのが正解なんだろう? いつもお世話になってます? ちょっと硬いだろうか。かといって軽すぎてもいけないし……。

 もうなんにも分からなくて、ちらっと倉岡さんを見上げた。すると――。


「…………え?」


 倉岡さんは、固まっていた。こんなに固まるなんて、何かあったんだろうか。


「あの、えっと……大丈夫ですか?」


 腕をつんつんとつついてみた。

 すると、倉岡さんはびくっと飛び上がって……少しだけ、私から逃げた?


「……っと、あ、ごめんな」


 そう言って、倉岡さんは笑顔を。どこか、無理やりに見えた。


「いえ、ぜんっぜん大丈夫ですよ!」


 私も、笑顔を返す。笑えていたかな? 笑えてたら、いいな。そんな私に、倉岡さんが口を開く。


「石倉、バイト帰り?」

「はい! そうですっ」


 こんな感じで、良いのだろうか。最適解なんて知らない。あるのかもわからない。

 けれど、私は私のままでいたい。倉岡さんは、くしゃっと顔を崩した。


「そうか。あんまり頑張りすぎんなよ?」


 ――心配、してくれてるのかな。私のことを? 倉岡さんが? そんなわけ、ないか。私の勝手な勘違いだよね。

 でも、素直に嬉しいと思っちゃう私がいる。私って、案外チョロいのかもしれない。


「大丈夫ですよ! お客さんの道しるべに、なりたいですから」


 道しるべ。

 このコトバは、倉岡さんが教えてくれたコトバだ。

 『誰かの幸せのささやかな道しるべになる。それが俺たちの仕事だ』……って。

 私なんかが道しるべになれるわけないかもしれない。だけど、頑張りたい。少しでも笑顔になって欲しい。

 そんな想いがあるから、私はこのバイトを続けられている。

 倉岡さんは、こちらを驚いたような顔で見つめたあと――また、笑った。


「今日も寒いからな。風邪引くなよ」

「安心してください! 私、元気だけが取り柄ですもんっ」


 腕で軽く力こぶを作りながらおどけてみせた。すると、倉岡さんはぼそっと――。


「――――――だけ、じゃねぇけど」

「え?」


 今、何か言ったよね? 何を言ったんだろう。


「あの、今なんて――」


 そう聞こうとすると、倉岡さんの耳がどんどん赤くなっていった。――さっきまであんなに冷たそうだったのに。急に熱出ちゃったのかな?

 そんなことを冷静に頭の中で考える。その間も倉岡さんは真っ赤になり続けていった。


「いや、なんでもないっ。じゃあな! 帰り、気をつけろよ」

「あ、はーい……?」


 疑問は残るけど、やっぱり倉岡さんはいい人だと思う。

 私の……憧れ? なにか、違う気がしなくもないけれど。

 この想いの正体が分かる日は、来るのかな?

 来るよね、きっと。その日がいつかは分からないけれど、待ってみようと思う。

 街のイルミネーションは、今日も変わらず輝く。


次の話はこちら

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リレー小説 幸せの道しるべ @umiuta

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