お前にやるカツはねぇ

森林幹

お前にやるカツはねぇ1

お茶の間の時間も終わりを告げ、バラエティ番組の内容がガラッと変わる夜9時ごろ。今年の春から受験生になったにも関わらず松村慎吾は部活の仲間と共に夜の街をかけ回っていた。


「なあ、しんちゃん今度の送別会もちろん行くよな?監督も来るって言ってたから顔出さないとまずいんじゃないか?」


やんちゃな武田掘削は気分高らかに慎吾の肩をポンポン叩きながら煽るように顔を近づける。


「慎吾が行くわけないじゃん、監督と揉めて以来部活に顔だしてないしあれ以降歴とした幽霊部員扱いされてるしね」


慎吾とは昔からの中である菊川雷来が鼻先まで下がってきてるメガネをクイっと上げる。雷来のメガネが下がってしまうのは親のメガネを勝手に使っているからだ。親からは自分に合ったものを使いなさいと注意されているが、あるものを使えば良いの一点ばり。頑固なメガネである。


「それマジ?」


「何が?」


「幽霊部員扱いってやつ...」


「マジってか逆に知らなかったの?てっきりそれで部活に顔を出そうにも出せてないの顔思ってたわ」


慎吾の表情から先ほどまでの笑顔は翳りを見せ、悲しそうな、虚しそうな雰囲気を纏い出す。監督と揉めた日も最初こそ血相を変えてパニクったものの最終的には(時間が解決してくれるでしょ!!)と言う逃げの考えに至り今日まで来てしまった慎吾は自分の存在が部内でないものとして扱われていることがショックだったようだ。


「あははは!こりゃ傑作だ!まさか知らずに呑気にその辺うろちょろしてたなんてな、てっきりそっぽむいてぐれてんのかと思ってたぜ!」


「そう言うお前らだって最近は俺とよく一緒にいるじゃねぇか——」


「「俺らもう引退してるし」」


いつの間に引退したの!?と言う言葉が出そうになるも慎吾は言葉をつぐむ。そんなことを言ったらまた、知らなかったの?と煽られてしまう。送別会という単語から引退という二文字が思い浮かんだ。さすがの慎吾でもこれくらいなら考察できる。っていうかこれくらいしか考察できない。考察と呼べるかもこの怪しい行為を慎吾は誇らしげに思ってしまうほど残念なやつだ。


「ふ、ふ〜ん——」


「どうしたの強がっちゃって?ママが何か買ってあげるから期限直してね!!」


掘削は煽りを緩めることなく強める。

掘削は満面の笑みを浮かべた。

(う、ウゼェ、でもいつも言い返したとこで負けるんだよなぁ———)


「よかったな慎吾、掘削が何か奢ってくれるってさ!」


どう言い返そうか迷っていた慎吾を助けるために、いや、掘削に奢ってもらうために雷来が動いた。雷来はニヤリと笑みを浮かべた。


「えっマジで?後から嘘とかいうなよ!!」


先ほどからの態度とは一転、慎吾も笑みを浮かべた。(良くもやってくれたな)と掘削は雷来を見つめるが雷来はスーッと視線を外に向ける。


「俺、超うまいトンカツ屋知ってるからそこに行こうぜ!!この近くだしさ!!」


「行こいこっ」


「お前らちょっと待てって」


慎吾の後ろに雷来が続き一気に走り出す。そのあとを急いで、お財布に300円ちょっとしか入ってない掘削が追いかける。

(カツって300円で食えるよな...?)
















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