25

 それから、さらに三年の時間が経過して、二人は同じ高校の三年生になった。

 その日、二人は青色の空が広がる、夏の校舎の屋上にいた。


「ねえ、真冬。知ってる?」と芽衣は真冬に話しかけた。

「知っているって、なにを?」真冬は言う。

「……私は、ずっと、ずっと真冬に助けられていたんだよ。あの、中学の一年生のときにさ、真冬と初めてあったあのときから、ずっとずっと真冬に助けられていたの」

 芽衣は真冬の手をずっと握っている。

 そんな芽衣の手は、中学校のときから、相変わらず、ずっと冷たいままだった。

「真冬にはきっとそんなつもりはなかったと思うけど、私は真冬の手の温かさに、真冬の笑顔に、ずっとずっと、救われ続けていたんだよ」

「僕だって同じだよ」真冬は言う。

「ううん。違うよ」芽衣は言う。

「私と真冬じゃ、問題の深刻度が全然違うよ。真冬はとても強い人だけど、私は、……すごく弱いから」芽衣は頭を真冬の体にそっと預けた。

 そんな芽衣の頭を真冬はそっと優しく撫でた。

「真冬は、すごくあったかい人だね」とても幸せそうな顔で芽衣は言う。

 それは今では芽衣の口癖のようになっている言葉だった。


「……そろそろ午後の授業が始まるね」時計を見て真冬が言う。

「授業さぼって、ずっとこうしていたいな」と芽衣は言う。

「生徒会長が授業をさぼったらだめだよ」真冬は言う。

「もちろんわかっているよ。そんなの冗談だよ。冗談。まったく真冬は。いつも冗談が通じないんだから」と笑いながら芽衣は言う。


 二人はその場に立ち上がると、うーんと一度大きく一緒に背伸びをしながら、お互いの顔を見る。

「じゃあ、いこっか?」芽衣は言う。

「うん。行こう」真冬は言う。

 二人は手をつないで、一緒に大地の上を走り出すようにして、屋上をあとにする。

 その二人の足取りに迷いはない。 

 真冬と芽衣の二人には、これからの自分たちの進むべき道が、このとき、確かに、はっきりと見えていたからだ。


 早乙女 さおとめ 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

早乙女 さおとめ 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ