故郷にあった幻の駅

Hugo Kirara3500

駅の余命

 私の実家近くにあったあの駅。ホームにある待合室が貨車に窓をつけて中にベンチを置いただけのあの駅。最後の頃には乗客が私一人になって、私が高校を卒業すると同時に消えていった故郷のあの駅のこと。


 二月二十一日、卒業まであと十日。朝、いつものようにあの駅から列車に乗った。こんな光景が見られるのもあと僅かだというのがまだ信じられない。すでに進学先も決まっていて、幼馴染の美津穂みずほちゃんとしゃべる以外に校内ではあまりやることはなかった。


 私の卒業式がある、あの駅の最終日の三月一日の朝、いつもは人気がまったくないあの駅に多くの人が群がっていた。別れを惜しむ近所の人達とか、遠くからやってきた鉄道好きの皆さんとか。そしてテレビ中継スタッフまで。列車に乗ったときの私の姿は全国に流れて、写真が新聞に載りました。当時は結構戸惑ったけど、今は私もいわゆる「乗り鉄」になって遠出する時は車掌さんに私と列車の写真を取ってもらったりするけどね。


 一年ほど前、久しぶりに里帰りした時のこと。私が東京に帰る前日、パパの車で駅の跡地に行った。今も列車はなんとか走っているけど、駅のあったところはもう待合室もホームもなくなって、それが来ても何もなかったかのように走り抜けていった。それを見た私はさびしくて涙を流した。そして駅のあった線路脇に持ってきた花束をそっと置いた。そう思ったらなにか周りがユッサユッサ揺れているような感じがする。もしかして地震!?


★★★


真依寧まいねちゃん、昼休みは終わったよ」

「ありがとう、日花里ひかりちゃん……」

私は食後講堂に戻ってすぐ寝てしまったみたいだった。ここ数日は期末試験が近くて寝不足気味だった。せっかく一年上の臨実のぞみ先輩と沙桜さくら先輩から借りたノートも開くことが出来ないまま結局今日午後の愛緒羽あおば先生の授業は予習無しで受けることになってしまった。


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