第4話 玉子と王子

「白鳥くん、わたしあなたを誤解していたみたい」

 主語の多い言葉を投げかけてくる非鳥。

「あは♡」

「ううん。やっぱり誤解していたのを誤解していたみたい」

 怪文書を並べる非鳥。

「玉子、食べる?」

「……いいよ、食べる」

 あの玉子を嫌っていた非鳥が玉子を食べる。

 そのことにクラスメイト全員が注目する。

「うちの高級ブランド《天の川》、一個一万円だよ」

 そう言って生玉子を差し出す王子。

 非鳥はその卵の上部の殻を綺麗に取り除き、ちゅるっと吸い取る。

「……うん。おいしい」

「あは♡ 今度また買ってね♡」

「え。それだけ?」

「うん?」

 俺は意味が分からずにフリーズする。

「ええっと。わたしにかける言葉はないの?」

「うん?」

「その、なんというか……、なんかないの?」

「うn?」

 言葉が分からずに戸惑う俺。

 王子に何を求めているのか分からない。

 俺はどうすればいいんだ?

 困り果てていると、非鳥がぐいっとネクタイを引っ張る。

「あんた、玉子バカ?」

 耳元でそう囁く非鳥。

「……ありがとう。最高の褒め言葉だ」

「きっー。その態度がむかつくのよ!」

 急に切れ始めた非鳥。

「恋愛的な意味なのに」

「ねー」

「分かっていないな」

「さすが白鳥」

 外野が何かさわいでいるが、それ以上に非鳥の奇行が気になる。

「うきーっ!」

 まるで紀元前の人間になる前の猿みたいな奇行っぷりだ。

 教室内を走り回り、机を蹴っていく。

 そうとうご乱心な非鳥。

 俺はどうしたらいいんだ。

 分からずにとりあえず非鳥の前に立ちはだかる。

「王子にできることはこれだけだ」

 俺は非鳥を抱きしめる。

「さ。檻へ帰ろう」

「うきー……」

 段々大人しくなる非鳥。

 俺はほっと胸を撫でおろす。

「今夜の玉子パーティに来るかい?」

「行く!」

 即答である。

「って。玉子パーティ?」

「そう。玉子パーティ」

 ハテナマークを浮かべている非鳥。

 それもそのはず。

 そのパーティは内密に行われているのだから。

「まだ、チャンスあるのね」

「ん。どうしたんだい? 非鳥」

「ははは。いいよ。おしゃれしていくからね」

「うん。楽しみだよ。待っている」

 俺はにこやかな笑みを浮かべて彼女と約束をした。


※※※


 玉子パーティに来た非鳥は可憐なドレスに身を包んでいた。

 最高の姿を見せてくれたお礼に玉子をプレゼントした。

 会場にはたくさんの玉子料理が並んでおり、年寄りばかりだった。

 でも俺と非鳥の二人だけが若いので、ちょっと心強かった。

 非鳥と一緒に色々と会話をし、玉子を食べた。

 たくさん玉子を食べた。


 玉子の王子さまはやっぱり玉子のことしか考えていなかった。

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王子と玉子 夕日ゆうや @PT03wing

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