1-02.最初からいる嫁キャラの安定感
「起きて下さい……」
気を失っていた俺を起こしてくれたのは、少女の可憐な声だった。……開眼してひと目でわかった。この女の子は『神に用意された存在』だと。とても可愛い。
サラサラの黄金色のショートヘア。黒い瞳が艶やかに光る。衣装は何故か現場のおっちゃんが着ているような作業服だが……やはり土木系と言ったからか。
そこはまぁ、余裕が出来てから着替えればいいだけの話だな。
「起きて下さい……あ、起きてくれましたね。
おはようございます、マスター」
……今の言葉の中で、ひとつ違和感があった。
『マスター』だと?
それは『主人』を意味する言葉。そういう特殊な呼び方をしてくるということは『彼女は何らかの属性を持っている』ということだ。
「おはよう。これからよろしく。
俺は桜辺励多だ。オウベが名字で、レイタが名前だ。
……君の名前は?」
「わたしはユアーシャ・ベール・クロックワ。
ユアーシャが個人の名となります。
どうぞ、マスターのお好きにお呼びください」
「良い名前だね。なんか優雅な感じだ。
……ところで、ユアーシャ、何か俺に言うべき注意事項はないか?
君とこれから関わっていくうえで、重要になることがあるんじゃないか」
俺の言葉に、ユアーシャは驚いたように目を見開いた。そして尊敬と感心の念を込めた声で言った。
「ご明察です。マスター。
わたしは、神により創造された『神造生命体』なのです。
あなたを愛し、長く共にあり、長く美しさを保ち、土木作業に従事します。
マスターのお力添えを頂いて初めて『充分な力で稼働』します」
俺が指定した部分もあるとは言え、変わったプロフィールを持っている……まぁ、個性だ個性。個性の範囲だ。
だが、ユアーシャは明らかに気になるワードを言った。
「神造生命体……か。
ユアーシャ、君は人間というわけではないのか……?」
「ええ、その通りです! ご明察です!
マスターと『長く共にあり、長く美しさを保ち』ながら『土木作業に従事』するのは、普通の人間オンナ如きには困難なことです。
ですので! 神はわたしを造り賜うたのです!
わたしのマスターへの愛は、この世全ての人間ザコ女には負けません。あの程度のイキモノに! わたしが負けるはずがないのです!」
ユアーシャはそう熱弁した。……微妙に人間女性への侮蔑が見えたのが気になるが、そう言った部分は今後の話し合いで徐々に矯正していけばいいだろう。
ユアーシャは人間ではないのか。……まぁ些末なことだ。少なくとも彼女を見て大きな違和感などはない。際立って可愛いだけだ。
しかし、ひとつ確認しておきたいことがある。
「ユアーシャ、君の『人間とは違う部分』をもっと知りたい。
ごめんね。人間のことならある程度分かるんだけど、ユアーシャについては説明して貰わないと知識が増えないんだ。
君のことを知りたいんだ、ユアーシャ。……教えてくれるかい?」
ユアーシャは俺の言葉に『はわわ……』と少し古い感じの反応を見せながら照れた。……そして、気を取り直して説明してくれた。
「そうですね。わたしにはメンテナンスが必要です。
まず土木作業に使う動力のために『魔法のゼンマイ』を使用しております。山菜のことではありません。『クロックワークス』のことです。
これのまき直しが定期的に必要となります。『ゼンマイ』の巻きが切れてしまうと、力が出なくてお人形さん状態になってしまいます。
最終的にはそうですねー、人間で言うと……仮死状態、ですかね?
そしてもうひとつ! 使用されますと『YOU圧』が少しずつ落ちていってしまうのです。これはパワーに影響しますので、これがないと弱くなります。
細かいメンテについてはわたし自身で出来ますので、このふたつに関してはマスターのお手を借りることになります」
「えーと、生命なんだよね? ロボではないよね?」
「ロボ違いますよ。ほら、触ってごらん下さい」
そう言ってユアーシャは俺の手を取り、その細く白い首筋に触れさせた。
「柔らかくて暖かい。この作業着のボア……この手触り、ウールかな。
……これ冬用じゃないの。暑かったりしない?」
「魔力で動作する空調ついていますので!」
「魔力か。便利なファンタジー動力だな。
それで、『ゼンマイの巻き方』と『YOU圧の直し方』ってどうやるの」
俺の問いにユアーシャは、ひどく赤面した。
「……それはもちろん、夜の営みです。
夜の陣営のことではございません。どちらかと言うと夜戦です。マスターと夜間に同士討することです。……あ、もちろん夜でなくても全然OKです!」
この点はユアーシャの機能の制約とも言えるが、もしかしたらあの神様が俺の申告に気を利かせて設計された部分なのかも知れない。
「おぉ……なるほど。
……ひとつ聞く。ユアーシャは『ゼンマイの巻き過ぎ』とか『YOU圧の高め過ぎ』とかで不具合は出たりしないのか?
一般にゼンマイは巻き過ぎてはいけないし、油圧は高め過ぎてもイカンだろう」
「ハイ。その辺は問題ございません。
だって生命体ですから! 重機やロボというわけではないですから!」
ユアーシャは自身たっぷりに言った。……きっと彼女はウソは吐いていなかったのだろう。単に自身の仕様を未確認だっただけで。
後に思った。彼女に取扱説明書があるかは分からないが、ちゃんと自分で読むか、俺に説明しておいて欲しかったと。
ゼンマイ仕掛けの黒鍬少女 ~ クロックワークス・クロクワ ~ 古鶏真祖 @kokeishinso
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