我が遺作(最終版2).txt

襟裳ミサキ

Yへ(編集済み)

この原稿を開いているということは、僕が遺言状に書いた通りに、この遺作を投稿しようとしてくれているのでしょう。ありがとう。そして、ごめんなさい。


生きている間、僕は良き兄では決してなかったと思います。

あなたの物心がついた頃には、僕は部屋に引き篭もりがちになっていましたから、まともに話したことなんてなかったかもしれません。兄失格だと言われてしまっても、あなたに嫌われてしまっていても、仕方がありません。

でも、僕はYのことを、大切な妹だと思ってきました。

あなたが部屋の前に置いてくれる夕ご飯には、ときどき手書きのメッセージが添えられていて、そんなあなたの優しさに、僕はいつも申し訳なく思っていました。(もしかしたら、母さんに頼まれただけだったかもしれませんが。)


僕が臆病なせいで、結局最期まで直接感謝を伝えることは叶わなかったけれど、こうして文面上であっても、あなたに感謝を伝えられたことを嬉しく思います。


遺言書にも書きましたが、僕はこの原稿を世に公開したいと考えています。僕が書いた、最初で最後の長編作品ですから。

しかし、僕自身について書く上で、あなたを含めた家族や、僕とあなたが住むこの町について触れてしまっている箇所がかなりたくさんあります。

その為、このまま公開してはあなたたちに迷惑がかかるのではないかと心配なのです。


そこで、この作品の検閲をY、あなたに頼みたいのです。この遺書にあなたが公開されたら困る事項が含まれていた場合、好きに書き変えてしまって構いません。しかし、書き換えた項目については、必ず「(編集済み)」という印を項目名の隣につけておいてください。


部活で忙しいあなたに頼むのは心苦しいけれど、遺言状に書いたあの手間のかかる手順をこなして、この原稿を見つけ出してくれた優しいYなら、きっと受けてくれると期待してしまいます。勝手に期待してしまって、本当にごめんね。もちろん、やらなくてもいいんです。僕は決してあなたを責めたりしません。


長い手紙になってしまい、すみません。ここまで読んでくれてありがとう。

最期に、母さんと父さんによろしくお伝えください。


2024.12.18

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