エリカとミソラの物語

仲仁へび(旧:離久)

エリカとミソラの物語




 私の名前はエリカ。


 異世界から連れ去られてきた人間だ。


 私が生まれ育った世界の人間には、魔力というものが多いらしい。


 魔力のない世界だったにもかかわらず。


 そのため、魔力が枯渇しているこの世界の人たちは、異世界から、人を召喚し、攫っているのだ。




 この世界エド・フランツ・レーテル。

 異世界エドは、私達のような異世界人を定期的に攫って、魔力を抜いてきた。


 魔力を抜かれた人間の末路は、死だけ。

 だから私も、死ぬものだとばかり思っていた。


 とある少年に助けられるまでは。


 その少年の名前は、ミソラ。

 美しい空という意味の名前らしい。


 ミソラは世界に喧嘩を売って、私と、そして私達と同じような人間を何人も助けてくれた。


 ミソラは、その後私達を信頼のできる隠れ里へ預けた。


 私達はそこで、何年も暮らす事になる。


 世界は混沌の中に包まれてしまったけれど、私達はそこそこ平穏に暮らす事ができた。


 それはミソラのおかげで、他ならない。


 けれど私は、この世界の人たちの事が気がかりだった。


 だから、隠れ里をでて、自分の身分を隠しながら世界を旅する事に決めた。


 私が何かを知っても何もできないかもしれないけれど、この世界の人たちには酷い目に合わされたし、殺されるところだったけれど、何も知らないまま平和に生きる事はしたくなかった。





 世界を旅した私は、度々ミソラの話を聞く事になった。


 ミソラは悪人と呼ばれる多くの人を助け、この世界を混沌の中に陥れる大罪人として指名手配されていた。


 けれど私は、彼が悪い人間に見えなかった。


 だって彼が助けたーー悪人と呼ばれている人たちには、何かしらの事情があったり、誰かに虐げられている者達だったから。


 だからミソラに会って、話を聞きたいと思った。



 


 ミソラに再会したのは旅を続けてから3年ほどが経過した時だ。


 私はミソラを見て、衝撃を受けた。


 最初に会った時とはずいぶんと印象が変わっていたからだ。


 頬はこけ、目の下にはクマができて、体はやせ細り、今にも倒れそうだった。


 おそらく彼は無茶をしている。


 きっと、この世界で苦しむ誰かを助けるために、自分の体に鞭を打っているのだろう。


 私は、彼の力になりたいと思った。


 彼の事は、何も分からない、何も知らない、けれど、命の恩人である彼とこのまま別れる事などできなかった。






 ミソラは、私に微笑んで言った。


 見返りを求めて助け出したわけではないと。


 だから、私も彼をまっすぐ見つめながら言った。


 恩を返すためでもあるけれど、私が私としてあるために、困っている人を見過ごしたくないのだと。


 手を伸ばそうとしないミソラの手を、私は強引に掴む。


 彼の傍には、一人もいない。


 どうして仲間がいないのか分からないけれど、彼が過ぎた良心で自分を痛めつけてしまわないために、これからは私が支えになろうと思った。






 それから私は、ミソラと二人で旅をした。


 ミソラはいつだって困っている人間を見過ごさず、助けてきた。


 私もそんなミソラを助けて、支えてきた。


 彼はどうしてそこまで、人を助けようとするのだろうか。


 私は何度も問いかけたけれど、彼はその答えを口にしなかった。


 自分を追い込むように、ただ泣いている誰かを、辛い思いをしている誰かを助けるだけだった。


 私はミソラに信頼されていないというわけではないと思う。


 けれどミソラは、私との間に分厚い壁を作っている。


 その壁は、おそらく取り払われる事がないのだろう。






 それからも私と、ミソラの旅は続いた。


 何年も、どこかで泣いている誰かを助け、流す涙をぬぐってきた。


 しかし、終わりは唐突に訪れる。


 鎖に繋がれた生贄の少女を、竜の元から助け出された時、彼は思い傷を負ってしまった。


 彼は、もう長くはないだろう。


 ミソラと私の旅はここで終わりだ。


 私はそれからも彼の意志を継いで、この世界で困っている者達を助け、世界を知る旅を続けるつもりだ。


 しかし、その隣にミソラがいないのは寂しかった。


 無茶な生き方をする彼にいつか、このような終わり方が来るのだと分かっていたとしても。








 死の間際。


 彼はようやく自分の生き方について話す。


 それは本来なら、口にする言葉ではなかったのだろう。


 意識が朦朧としていたからこそ、言葉になってしまった不意の思いだった。


「この世界が魔力不足になってしまったのは、俺のせいなんだ」


 ミソラはかつて、この世界を豊かにしようとした。

 エネルギーとなる魔力を増やす研究を行っていたのだ。


 しかし、その研究は失敗し、世界の魔力が激減してしまった。


 だから、ミソラはその罪滅ぼしをしてきたのだ。


 話を終えたミソラは目を閉じて、眠るようにこの世を去った。


 私は、彼の亡骸に誓う




 彼の過ちを自分だけの罪にはしない。


 彼に助けられた私が、彼の償いを続けていくと。



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エリカとミソラの物語 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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