仏の首

沼モナカ

第1話

西は今日も朝からむしゃくしゃしていた。

明日の無い我が身である。

つい最近まで、会社の課長を務めていたのだが、金の横領がバレて懲戒処分を受け、警察の厄介になって身汚しとなったのだ。

自分を追い詰めた部長に小さく悪態をつく毎日だが、堪忍袋の緒が切れたのだろう、近隣の迷惑を気にせずに喚き散らしては落ち着くという2,3時間を過ごしてしまった。

まずい、と思った西はふと圧倒的解決策を思いついた。かの部長を呪い殺すという外法にたどり着いてしまった。

さて、目ぼしいものは無いかと周囲を見回した。おっと目に留まったある物に吸い寄せられている。

自宅にある仏壇である。その中にある仏像の首を使えば仏様の力で呪殺が成功するに違いない。

嬉々として作業に取り込むが、所詮は若手にパワハラをして過ごしてきた男である。切断工具も無いので包丁で切らざるを得なかった。

あまりにも時間が掛かり、飯を済ませながら作業が完了した頃には深夜2時を回っていた。世間で言う所の丑三つ時、いよいよ流れが来ているに違いない。

さて、荒く切断された仏の首を前に両手を合わせて念仏を唱えた。頭には憎むべき上司が殺害されるイメージをひたすら思い浮かべている。

するとどうしただろうか、怨敵が寝静まっている光景が浮かんできたではないか。

圧倒的興奮と支配欲により、死ね、死ねと口ずさんでいる。相手も苦しむ様な表情を浮かべている。

「満足したか? 仏の我の首を呪に使ったお前は今や釣瓶と化しておる。お前は今やこの世の者では無くなったぞ。試しに己が身がどうなったか確かめてみよ」

あ、と西が思ったが、念仏を唱えていた肉体の気配が無い。何度も目を開け閉めしても宙に浮いているような光景だけである。

あまりの事態に狂乱しながら、西の首は夜闇のどこかへと飛んでいった。

西の死体がどうなっているのかを確認しに行ったのだろうか。

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仏の首 沼モナカ @monacaoh

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