第3話 はじめての野宿

 私と皐月と、先ほど出会った青年のアキラで、村から離れて森の中を歩いている。

 すでに正午を回った頃だろう。お腹は空くが、モンスターから離れるためになるべく遠くに行くことにした。

 村から南にあるヴァストークタウンに向かっている。そこに行って、村の人たちの弔いも手伝ってもらえるようにお願いしようと考えていた。アキラが言うには、私たちの住む村、オリエーンス村はヴァストークタウンの統治下なので、手伝ってもらえるだろうとのことだ。

「姉さん。そういえば、こいつって誰なわけ?」

 皐月がもっともな意見を言った。

 アキラのことだ。

「私と探し人を間違えている人」

「俺の探し人は君だよ。杏奈」

 小走りで移動している私に、先を走っているアキラはウインクした。

「違います。あなたの探している人はイヴって人ですよね?」

「それが君なのさ! あと、敬語じゃなくていいよ。俺は十六歳。君は?」

「私と皐月は十四歳だけど……。この人は変な人なのよ。皐月、何とかして」

「無茶言うなよ」

 私はちらりと、アキラが手に持っているサーチャーを見た。相変わらず、青く光っている。

 足音はまばらに聞こえていて、あまり動きが感じられなかった。もしかしたら、村にいるのかもしれない。

「モンスターって、人を食べたりしないよな?」

 皐月が不安そうに声を漏らす。

「そんな事例は聞いたことがないから、大丈夫だよ」

 アキラはそう言って、サーチャーをポーチにしまった。

「俺は旅を二年くらいしているけれど、人を食べようとするモンスターには出会ったことがない」

 私は置いてきた村の人たちが気になっていたが、それなら死体を荒らされることもないと安心した。

「今日中にはヴァストークには着かないけれど、二人は野宿しても大丈夫かい?」

 私と皐月は顔を見合わせた。

「野宿はしたことないわ」

 私も皐月も、村から森に行くことはあるが、それ以上先には行ったこがなかった。

 これから行くヴァストークタウンも、話に聞くだけで、どのような街かは完全には知らない。

 今は、アキラを信じて着いていくしかないのだ。


 すっかり夕暮れになり、そろそろ野宿の準備をした方が良いとアキラに言われた。

「テントは一人用だから、杏奈が寝なよ。皐月と俺で見張りをしよう。まあ、途中で皐月は寝てても良いけれど」

「お前が信用できるまでは、俺は寝ないよ」

 皐月の言葉に、アキラはにっこりと笑った。失礼なことを言っているのに、怒らないのだろうか。

「私だけ寝ていいの?」

「もちろんさ」

 テントを建てて、私は寝ることにした。私はアキラのことをどうしても不審に思えなくて、今は信じてしまっている。私がイヴ、という点についてだけは納得できないが。

 テントの外では焚き火をしていて、アキラはサーチャーを握っていた。

 初めて会った時、モンスターを一撃で倒していたから、モンスターが来ても大丈夫だろう。

「……一人で旅をしていた時は寝ていたのか?」

 皐月の声だ。テントの外の声が聞こえた。私は聞き耳を立てることにした。

「朝方に寝ていたかな。モンスターはサーチャーが光ればわかるけれど、山賊に襲われる可能性があるからね。山賊は深夜に行動するんだ」

「へえ。用心深いんだな」

「一人で旅をしていればな。皐月はなんで杏奈のことを姉さんって呼ぶんだい?」

「姉さんだからだよ。お前には関係ない」

「種族が違うのに」

 アキラは明るい声でそう言った。

「魔族が猫耳族を姉さんって言って、何か悪いことでもあるのか?」

「全然悪いことなんてないさ。興味本位だよ」

「ふーん。そういうお前の種族は?」

「ヒュー族」

 ヒュー族とは、魔法が使えない人間のことだ。私のような猫の耳と尻尾がある動物族とも違う種族だ。見た目は魔族と変わらない。

「ヒュー族? それであの速さで走っていたのか!?」

 皐月は驚いたように声を上げた。

「ちょっと仕掛けがあるんだ」

「何だよ、それは」

「秘密」

「はあ!?」

 その瞬間、アキラの笑い声が聞こえた。

「杏奈と皐月の関係の秘密を教えてくれたら、教えてあげるよ」

「はー。めんどくさ」

 二人は話し終えたのか、静かになった。

 私は段々、まどろんできて、そのまま寝てしまった。


 ――朝。

 少し肌寒くて、私は起き上がった。

 外に出ると、木々の間から太陽の光が見えた。

「おはよう。杏奈」

「姉さん、おはよ」

 アキラと皐月が火の始末をしていた。

「ヴァストークで補給をしてあったから、食料はいっぱいあるんだ。さあ、食べて」

 アキラがそう言って、缶詰一つとパンをくれた。もちろん、水も。

「それ、どこに持っていたの?」

 私が尋ねると、アキラは腰に付けているポーチを指差した。

「ここだよ」

 明らかに、ポーチの大きさと、食料やテントの大きさが合わない。

「不思議ポーチ」

「はあ……」

 何だかはぐらかされてしまったが、あまり嫌な気持ちにはならなかった。

 私は皐月の隣に座り、もらった食料を食べることにした。

「フォークが一本しかないみたいから、木の枝の箸で」

 皐月から、枝を二本渡された。

 その枝で、缶詰の肉を食べることにした。

「美味しいわね」

 缶詰は生肉を焼いたものよりは美味しくないものだと思っていたが、生肉を焼いたものに匹敵するほど美味しかった。

「肉屋で買ったからね」

 アキラは嬉しそうに笑った。

「食べ終わったら、行こうか。今日中にはヴァストークに着くはずだよ」

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2025年1月9日 21:00

イマジン〜私たちが共存するための100の方法〜 夜須香夜(やすかや) @subamiso

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