いつか


「それで、それからどうなったの?」

ピンク色した頬っぺを楽しそうにニコニコさせて、孫娘がきいてきます。

「ちょっと待っとくれ。婆やんも話し疲れたから、続きはまた今度でいいかい」

え〜っと少女はピンクの頬っぺを膨らませました。

「ちょっとユウリ。おばあちゃんも疲れてるんだから無理言わないの」

「だって夏休みの宿題なんだもん。昔の人からお話し聞いて、感想文を書くんだから」


古い言い伝えの残るおばあちゃんの家。納屋の中にはむかーし昔の物がたくさんあります。

初めはこわかった古い鬼のお面も、おばあちゃんの話しを聞いていたらすごく良い物に思えて来ました。



久しぶりに実家に行くと言うお母さんに、おばあちゃん家にはきっと作文になりそうなお話しや昔のものがたくさんあるよと教えられて、一緒にくっついて来ました。

でもおばあちゃんの昔話は面白くて、作文のためだけじゃなくてもっともっと聞きたくなります。

「ねえおばあちゃん。あの納屋の中にあるのは、本当に鬼さんが造ったお面なの?」

可愛い孫娘におばあちゃんは優しく微笑んで

「本物じゃあよ。むかーし昔の人から代々伝わるもんでねぇ。ほれなのにあんなしっかり形が残っとるもんなぁ。人間にゃあ出来ない代物だと婆ちゃんは思うよぉ」

子供の頃は自分もこわかったし信じられませんでしたが、今では鬼のお面も言い伝えのお話も本物で本当にあった事だと思えます。

「今夜もお泊まりじゃてぇ。また明日の朝にでも話して聞かそうかね」

「うん!ユウリ早起きする!あのお面も、明るい時にもっと良〜く見てみたい。あ、おばあちゃんも一緒に来てね」

あどけなくて愛しい孫娘の頭をよしよしと撫でて、おばあちゃんは縁側に腰かけながら娘の淹れてくれたいい香りのお茶をすすりました。





――――――――――――――――



「ねぇ、風太さん」

鬼の広間を眺めながら、桃子が風太に声をかけました。

「ん?なんじゃ」

酔い冷ましに横に座っている風太が答えます。

「いぇね。今こうして、鬼さんたちと村の人たちが仲良くしているのを、いつの日にか、誰か話しをしてくれるのかなって。そうしてお話しを聞いた人は、それが本当にあった事なんだって、信じてくれるのかなって」

遠い目をした桃子が、少し寂しく見えました。

「ん〜、分からん。分からんが、わしゃそう信じる。そういうふうにして、きっとずぅ〜っと語り紡いでいってくれる。わしゃあ、そう思うんだ。うん」

力強く話す風太の横顔を見て、桃子はもう一度広間を見つめました。


たくさんの鬼さんと、村の人たちが一緒になってお酒を飲んだり、おしゃべりを楽しんだりしています。

「そうじゃね。きっと、そうしてくれるね」

「そうじゃ。その時をわしら人間は見ることは出来んが。じゃが鬼さんたちがきっと見守ってくれとるさ。そう思うよ」

本当にそんな気がして、桃子はふっと唇を緩めました。


「あ!ここにいた!桃子さん、風太さん」

オンノコの男の子が二人に話しかけます。

「鬼の村長さんが、二人もお酒に付き合わないかって」

「いやぁ~わしゃようやく酒が冷めてきたとこなんだが…」

オンノコが風太に「特別なお酒があるんだってさ。二人にだけこっそり声掛けろって」

「誠か!…それは…、お付き合いせねばなるまいな?」

風太は桃子の顔を伺います。

「ふふっ、そうだね。私もお母さんとゆっくり話もしたいし」

村長と一緒の所で鬼のお母さんが手を振っています。

「桃太は僕と一緒にあそぼ!」

12の歳になった桃子と風太の息子は、いつもオンノコの一番の遊び相手です。

「いいよ!この前の続きをやろう!」

足早に駆けて行く息子を見送って、桃子は広間へ降りて行きました。






     干支の月日の巡るたび


     我が子と共に参ります


     鬼が山のみなさんと


     呑みたい村人引き連れて




     悠久の結びを祈念して


     永遠に続けと願かけて




鬼さんたちと村の人たちとの楽しい宴は、今夜も長く続きそうでした。







        ももいろ桃子の物語 第二部       

            ―――完―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ももいろ桃子の物語 (下) 北前 憂 @yu-the-eye

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ