毎日、会いたいな

嗚呼烏

彼氏になりたい

「彼女が降ってきたり、しないかな!」

不満の大きさが、顕れた大声。

性格の悪いイケメンには彼女がいんのに、性格の良い俺には彼女がいない。

現世のバグだよな。

まあ、ほんの冗談。

実際は、そんなことを思ったことはない。

話を変えるが、俺みたいな人間というのは。

彼女、というステータスさえ獲得してしまえばいいらしい。

だから。

本気で人を好きになったことがない人にとって、その女の子は誰でもいいらしい。

馬鹿で、最低だよな。

「……一応、女なんだけど。それ、私の前で言う?」

さて。

頬を膨らます女の子が、目の前にいる。

俺は気づいた。

こいつでもいいんじゃない。

こいつと絡んで、不幸になったことはないぞ。

二人でお出かけしても、金が減りそうなイメージがない。

「嗚呼……」

おい、馬鹿。

女性をなんだと思っている。

俺たち童貞において、女性は神だ。

神聖な女性を、そんな容易く扱っていいのか。

あれ、でも。

神聖な女性。

どこにいるんだ、あれあれ。

私には、一人の女の子以外見えない。

もしかして。

「こいつが?」

静まり返った。

冗談の通じる相手だとは知った上で、縮こまった。

哀んでいるような目が、俺を見つめる。

怒りの目をしていなかったことに安堵した。

でも。

視線が冷たくて、悲しい。

心が痛い。

「やれやれ、千堂くん。そういうことを言う性格だから、好かれないのだよ。紳士は、どんなに親しい人でも嫌がることはしない。そう、親しき仲にも礼儀あり。だよ!」

それだけ言ったら、身体を倒した。

漫画の内容に、発言が影響されている気がした。

女だとか言うなら、男のベッドで気安く漫画を読むなよ。

童貞が、何を考えているかなんてもの。

男に好かれる千尋には、分からない筈だ。

俺が欲求不満だったら、危ないだろ。

刈谷千尋かりたにちひろ

クラスで、とてつもなく好かれる。

ちゃんと、恋愛の観点で。

もちろん、友達としても好かれている。

カラオケに誘われるなんて、彼女にとっては日常茶飯事らしい。

まあ、顔は整ってるし。

性格も油っこい女の子してないし、優しい。

俺にだって、漫画の貸し借りを頻繁にしてくれる。

一週間に二回くらい、一緒に漫画を読む。

俺の部屋で。

そう、俺の部屋で。

友達ができるのに時間がかかる俺にとって。

こんな距離感で接してくれるこいつは、有難い奴だったりする。

こんなに可愛くて、気の合う友達ができるなんて。

そう思った。

それからというもの、すごく距離が縮まった。

恋愛感情とかではないけど。

その距離が心地良かった。

冗談を言いあえる関係だから、こいつに対する言葉遣いは良くない。

だけど、本気で大切にしたい人だ。

千尋と二人で笑える時間が、たくさんあればいいな。

俺の想像の中だと、ずっと二人。

俺以外の人が、これに入ってくるの。

俺は、なんか嫌だった。

この人の近くに、俺だけが居続けてたいな。

そんな状態が、消えないでほしいな。

この素晴らしい人を、独占したい。

「……ちょっと、は?」

あれ。

なんで、千尋に馬乗り。

やめろ、俺。

なんか、やめられない。

嗚呼。

あったんだ。

それ。

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毎日、会いたいな 嗚呼烏 @aakarasu9339

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