「お前の家、カレーにこんにゃく入れるんだ。へー」
白川津 中々
◾️
お泊まり会をしよう。
そんな提案を受け入れ、彼女の部屋にやって来たのだった。
「はい。じゃあご飯の用意するから、座って待ってて。今日はカレーね。カレー好きでしょ。好きだよね。みんな大好きカレーライス。嫌いな奴は許さない。カレーライス。カレーライス」
「はい……」
「どうしたの? 元気ないじゃん。カレーライス嫌いなの? 許さないよ?」
「あ、いや、どこに座ればいいのかなって」
一面見渡す限りの無。
ベッドすらない綺麗なフローリングだけがあるお部屋に招待された私はどこでもてなされたらいいのか検討もつかなかった。
「あぁごめん。うち座布団とかないから、そこの押入れから敷布団出して座っちゃって」
「わ、分かりました」
キッチンへ向かう家主。人様宅の押入れを漁るという行為には抵抗があったけれど、本人がいいというのだからいいのだろうと引き戸を開き、中を見る。
「部屋ができてる……」
ぽっかり空いた押入れ上のスペースに座椅子とライト。後山積みの漫画。あぁ、収納をこんな風に潰しちゃう。子供のころ、確かに憧れたけれども。
敷布団は下段に畳まれているが、この無駄スペースにある座椅子を出した方が早くないだろうか。いや、彼女は確かに敷布団を出せといった。であれば、その通りにすべきだろう。なにせ人様宅。勝手な真似は無作法である。
「よっこいしょ」
敷布団をフローリングに置き、座る。存外高さがちょうどいいものの、不思議な気分だ。眺める景色の新鮮さと相まって異国情緒に似たものを感じる。
「ねー卵なんだけどさー。ゆで卵。じゅくじゅくとカチカチどっちがいーい?」
「あー私はカチカチで……なんでハサミ持ってるんですか?」
「そりゃ、肉切るから」
「あ、包丁とかお使いにならない感じで」
「こっちのが楽なんだよねー」
「そうですかー」
……豚ブロック買ってたけど、ハサミじゃ切りにくくない?
などと言ってはいけない。何度もいうがここは人様のお宅。各ご家庭の文化は尊重しなければいけない。私にできることはただ待つのみ。カレー完成まで黙って座っていればいいのだ。
……
「できたよー」
カレー、完成。
床には鍋敷とトレー。なるほど、直置き。まぁ、いいかもしれない。こんな食べ方があっても。
「はい、できあがりました。カレーでーす」
「ありがとうございます」
見た目は普通。褐色のルーに白いライス。豚肉、人参、玉ねぎがゴロゴロ。そしてゆで卵。いたってオーソドックスなカレー。ま、悪くはない。せっかく作ってくれたのだ。いただこうか。
「じゃあ、いただぎす。あ、すみません。ソースありませんか?」
「え、あるけど、何に使うの?」
「そりゃあ、カレーにかけるんですけど……」
「え、カレーにソースかけるの?」
「え、かけないんですか?」
「かけないかけない。変わった文化だねー」
「……」
「じゃ、持ってくるから、待ってて」
「……ありがとうございます」
……お前に言われたくないんだよ。
私はそんな言葉を、ぐっと呑み込んだ。
「お前の家、カレーにこんにゃく入れるんだ。へー」 白川津 中々 @taka1212384
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