blood(蛇)

ろくがつ

第1話 出会い

「んー、、あと28文字」

誰もいない教室で俺はぽつりそうと声に出した。遅刻の反省文。いったい俺はあと何回書くことになるのだろうか、、。桜の花びらが散った4月下旬、温かく睡魔が俺を襲う。

「ねむ、、」

「風磨」

「あ、、」

そう俺の名前を呼んだのは、隣のクラスの

魅司後木 加四六(みしごき かしむ)だった。頭上から生えてんのかってぐらい目立った触角の髪を揺らし、目を細め俺に近づいてきた。

「お前また反省文、、喧嘩か??」

「ちげーよ、遅刻」

「2日前も書いたばかりだろ、、」

「あともうちょいだから待って」

「無理、先帰る」

「はぁ!?」

「眠い」

「いやいや、後数文字だぞ!?すぐだって!!」

「お前のすぐは15分後だ、じゃあな、明日は遅刻すんなよー」

そう加四六はスタスタと教室を出て行った。

「、、あぁー、、クソッ」


ーーーーーーー


「風磨のやつ今月あと2回は遅刻するな、、」

そう俺は自転車に乗りながら呟いた。先ほど風磨が文書を書いてる姿を思い出して、ふっと消しゴムが無くなったことを思い出した。

「、、家に予備の消しゴムあったかな、、ないよな、、買うしかないか、、」

そんなお金あるのか。給料は3日後。銀行の残高は後541円。百均の消しゴムとして、、3日間のご飯は、、

「、、ん??あれ」

ブレーキが効かない??

「え、は、嘘!!」

足を地面につけ必死に止めようとするが、俺の努力も虚しく自転車は猛スピードで坂を下っていく。もう数メートルで坂は終わり、目の前には川に架けられた平坦な橋が見えた。

「あ、、っ、、はっ!!」

目の前にいる1人の男に気がついた。

「、、!!危ない、、!!退いてくれ!!」

「え、、っ、、!!」

「あ」

凄まじい衝突音と共に、男は橋から落ち、下の川からボチャン!!と音がした。

「、、!!ヤバい、、!!」

俺は自転車を道の片隅に避け、雑草を抜け川へと降りて行った。

「大丈夫ですか!!すみません、すぐ救急車呼びます!!」

「、、っ、、」

「、、え」

男を見た瞬間俺は目を丸くした。傷口はみるみる治り、出血もとまっている。何より数メートル上から落ちたのに男は平然と立っているのだ。

「、、見たな」

男は冷たな瞳で俺を見た。その瞳に俺は殺意を感じ、後退りをした。

「お前、、blood、、」

「、、っ、、ラァァ!!」

「、、!?」

「最悪っ、、人前で怪我なんかっ、、!!」

男は俺に殴りかかり、ナイフを突き刺した。

「痛っ、、!?」

ナイフが頬にかすり、俺は体勢を崩し地面に転がった。男は俺の体に馬乗りに座りナイフを持った手を俺の顔に振り下ろした。

「、、!!待て!!」

「、、!?」

俺は間一髪で振り下ろす手を握って止めた。

「やめ、、っ、、ん??」

すると男も俺の異変に気付いたのだろう。先ほどナイフによってできた頬の傷が止血していき、皮膚を再生していった、その異常な傷の治り方に。

「、、お前、、」

「、、俺もblood(ブラッド)だよ、、」


ーーーーーーー


blood。それは能魔(のうま)という能力を持った怪物。その能力を駆使してbloodは好奇心や優越感で人々を殺すものが多い。また一部のbloodは本能的に人を食う。もちろん人間も黙ってはいなかった。人々を守るため組織というかbloodの殲滅部隊が世界各国にある。bloodが人間を襲い、組織がbloodを殺す、、ここ数百年でできたbloodと人間の深い対立は今後回復することなんてないんだろう。でもbloodが全員人を殺すわけじゃない、、少なくとも俺、、魅司後木加四六は人を殺さない。

「ごめん、、その前まで嫌なことがあったばかりだから、、気が動転して、、本当ごめん」

「いや、、俺の方こそチャリで突進して悪かった、、ん、、お前膝血出てるじゃん、、血止まんねぇの??」

「あぁー、、俺bloodだけど治り遅くて、、お前名前は??」

「え、あー、加四六だよ、、お前は??」

「俺は小我太(おがた)、よろしく加四六」

そう小我太は口角を少し上げた。耳下まで伸びた黒髪と右にしているピアスがゆらりと揺れる。切れ長生と長いまつ毛、、少し青白い肌に細い手足。中性的な顔と体型だが、少し馴れ馴れしい口調とあぐら座りで男だよなと認識した。

「と、とりあえず上にあがろうぜ、、こんな所いたら風邪引くだろうし、、」

「おー、あっちに階段あったから、、」

ぐゔっー

「、、??」

俺の腹の音が小我太を声を遮る。

「あ、わ、悪い、、」

「、、??腹減ってんの??」

「あー、、昨日の昼からなんも食べてないから、、」

「え、学校ってそんな大変なの」

「い、いや、、学校は関係ないけど、、俺お金ないから、、」

「、、、、」

「、、??小我太??」


ーーーーーーー


「ほ、、本当にいいのか、、??」

俺は目の前にあるかなりデカめのオムライスと彩りのいいサラダ、水に濡れた体を温めるにはちょうど良いオニオンスープを見てそう小我太に聞いた。

「うん、殴っちゃったお詫び、、店長もいいって言ってるから、遠慮なく食べちゃって〜」

「、、!!ありがとう!!いただきまーす!!」

俺は手を合わせてご飯にガッついた。

「美味っ!?小我太が作ったのか!?」

「うん」

「凄えな!!店で出せるぞ!!」

「出してんだよww俺このカフェでバイトしてるから」

「へぇ〜、、」

民家の中にひっそりと佇んでいる2階建てのカフェ。店内は温かく落ち着いた雰囲気で、所々にある猫の置物が癒しをくれる。

「ん、でもよくよく考えたら俺が小我太のこと突き落として、、お詫びは俺がしなきゃじゃ、、」

「まー確かに、俺じゃなきゃ死んでたかもねww」

「お、小我太なんか欲しいものとかある??」

「ない」

「いやー、、俺もしっかり謝りたいから、、」

「別に欲しい物はな、、」

「じゃあ、なんか好きな物とかねぇの??」

「好きな物??」

「おう」

「んー、、花かな」

「は、はな??」

「うん、花、お花は好き」

「、、わかった、、明日買ってきて渡しに来るわ!!」

「えっ、いいよー、お金ないんでしょ」

「どストレートに言うな、それにこれだけ食ったら2日は何も食べなくて良いよ」

「どんな体してんだよ、、」

「俺もお前にお詫びしたいから、、明日今日の橋のところで集合な!!夕方の5時ぐらい」

「、、わかった」

「おっし、じゃあ俺がくるまで待っててくれ!!絶対にだぞ!!」

「わかった、わかったww待ってるよ、、ww」


ーーーーーーー


「は、花??」

「おう」

「誰に」

「昨日知り合って、、お詫びに」

「、、女」

「男だよ、、」

「千秋(ちあき)以外に女いたの??」

「だから男だって、あと千秋は俺の彼女じゃない!!」

俺は風磨に向かってそうツッコンだ。

「なんで花なんだよ」

「好きなんだとよ」

「へぇー、、女々しい男なこった」

「、、その、、」

「、、??」

「、、いや、、なんでもない、、」

俺は言葉を濁らせた。小我太のこと風磨に紹介するか迷ったが、、もう少し時間が経ってからの方がいいだろう、、

「あ、これ綺麗」

「あー、良いんじゃね??」

「思ってないだろ」

俺は風磨にそう返した。

「花なんてわかんねぇもん」

「お前に付き合わせた俺が馬鹿だった」


ーーーーーーー


「、、っ、、」

やばい、、5時ギリギリ、、

「ん、、」

橋を見渡すとそこに小我太の姿はなかった。

「よかった、、ふぅ、、」

そういや、、やっぱり風磨に小我太を紹介するべきだったか、、数少ないblood、、仲良くしておけば組織と何かあった時も助けになるかも、、

「、、、、」

しかし俺が先ほど風磨に小我太の話をしなかったのには理由がある。bloodは3つの種類に分かれている。俺のように能魔を1種類持ち、人を食わずに生きていける純種(じゅんしゅ)。能魔を2種類持ち、本能的に人間の肉を求め食べる、外種(がいしゅ)。外種と同じく能魔を2種類持ち、外種を誘き寄せる特有の匂いを持ち、bloodの中でも希少な存在の血種(けっしゅ)。風磨は外種、、もしかしたら小我太を、、人間じゃない、、bloodだからと言って、、食べるかもしれない、、

「、、やめておこう、、」

「加四六」

「ん、あ、小我太」

「お待たせー、ごめんバイト長引いちゃって」

「いや、俺も今来たところ、、」

「、、ならよかった」

「、、??」

その間に俺は背筋がゾクリとした。小我太は当たって正常に見えた。後ろに手を回し、少しずつ俺に近づいてくる、冷たな目で俺を見ていた。その目に俺は見覚えがあった。昨日も同じ、、殺意の向けられた目を、、

「、、っ、、」

「、、!?ラァァ!!」

バシャアン!!!!

昨日より大きな音を立てて俺と小我太は川に落ちた。

「、、なんのつもりだよ小我太、、ナイフ突き刺してきやがって、、」

「、、、、」

もしかして、、小我太も外種なのか、、俺を食おうとして、、

「魅司後木 阿蚋(あぶと)、、この名前に見覚えある、、」

小我太俺にそう問いかけた。

「、、は、、」

「、、、、」

「お前、、なんで俺の、、あのクソ親父の名前を、、」

「、、そう、、お前のお父さんであり、、第参日本組織の専務、、俺が捕まってた組織の専務」

「捕まってたって、、っ、、」

なんだこの痛みは、、傷は塞がってるはずなのに、、体のうちからじわじわくるこの痛みは一体、、??

「、、阿蚋がお前の話をしたことがあった、、どうせお前も組織の回しもんなんだろ」

「、、は、、ハァ??」

「組織に戻るなんて二度とごめんだ、、ここで殺す」

「、、、、」

あの親父と、、俺が組織の回し者だと、、思われてる、、

「、、あんなクソ親父、、誰がアイツの為にこき使われる駒になるかよ、、」

「、、そんな言葉、、信用できると思ってんの、、」

「、、上等だゴラァ、、俺がどれだけアイツのことを恨んでるか、、思い知らせてやる、、!!」

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blood(蛇) ろくがつ @rokugatu0611

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