始業チャイム
真相を知った立花少女は、ここ数日を思い返して金曜日を迎えた。
皆がいがみ合う数日を、篭原教師より早く断ち切ろうと教室に入り、恐怖を覚えた。
先にいた生徒がこちらを見る──というより、睨んでいた。
「おはよう……」
誰にという訳ではなく挨拶をするが、返すものなどおらず、ただ立花少女をじっと睨んでいた。
居心地の悪さを感じながら自らの席にたどり着き、立花少女はその訳を知った。
『犯人は立花灯理だ』
彼女の机にはそう書かれていた。
何故、何処で何がどうなってこうなったのか。心当たりを考え、記憶をさかのぼり、決定的なものに当たった。
一人で職員室に呼ばれた。
前日にあれだけの議論を交わして、職員室にたった一人で呼ばれれば、そう思われてしまっても仕方がない。
「違うよ。私じゃない。全部、勘違いだったの」
再び誰にという訳ではなく立花少女が弁解をする。けれど、返ってくるのは、やはり視線だけだった。
容疑者の言うことは聞くけれど、犯人と決まった人の言うことなど、誰も聞かない。聞こうとしない。聞きたくない。
「違う……、私じゃ……」
その時、教室の扉が開く音がした。
「ああ、いじめっ子じゃん」
出入口の前には意地悪く笑う高森少女の姿があった。
「で、退学届は書いてきたの?」
「……何のこと?」
「だから、あんたが昨日貰ってた退学届だよ」
瞬間、立花少女は駆けだした。限界だった。昨日、受け取ったプリントさえも誤解されて、教室から彼女の居場所は奪われていた。
そうして彼女は教室に戻らなかった。戻ることはなかった。戻れなかった。いくら篭原教師によって事情が説明されようと、なんど細川少女が登校しようと、彼女は二度と姿を現さなかった。
失跡ならぬ失席。
空席ならば埋めればいいが、一度、失われた席が戻ることは無い。
例えそれが勘違いだとしても。
彼女をいじめたのは誰か 阿尾鈴悟 @hideephemera
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