事の真相

 平沼少年と関少年は良く一緒に帰ることがあるという。平沼少年が掃除当番──つまりは細川少女も掃除当番がある日、関少年は決まって図書室で待っているらしい。だから、細川少女と平沼少年は時として一緒に図書室へ向かう。

 また、図書委員の仕事があるときは、平沼少年が図書室で関少年の仕事を待っているそうだ。それ故、自分一人で終わる仕事の場合、細川少女は関少年を先に帰らせることもある。

 それを細川少女の両親は誤解した。

 どこでどう間違えたのか、聞き違えたのか、勘違いしたのか、両親は可愛い娘がいじめられていると誤解してしまっていたのだ。

 そこへ細川少女の突拍子もない行動が拍車をかける。

 彼女はとある小説家の大ファンらしく、その作家の最新作が先週の月曜日──彼女が休み始めた日に発売された。どうしてもいち早く読みたい彼女は、両親に腹痛と言って学校を休み、自室の窓から木を伝って降りてまで新刊を買いに向かったのである。翌、火曜日に作家のサイン会が同じ本屋であるとのことで、全く同じ手段を用いてサインを貰いまでした。

 そこまでならまだ良かった。

 しかし、彼女は雨に濡れていた。多少の対策をしていたとはいえ、万全でない三十分間の冷え切った道で、彼女は風邪を拾ってきていた。そして水曜日。彼女は見事に風邪を引いた。

 彼女はだましている以上、両親に雨に濡れて風邪を引いたなど口が裂けても言えなかった。部屋へ籠っている内に彼女の病状は悪化の一途を辿り、ますます籠城を決め込む他なくなった。

 その様子に両親は『いじめではないか』と学校へ報告をしてしまったらしい。

 彼女の両親がその事実を知ったのはよりにもよって昨日──それも、全員が帰った夜のことだった。学校への連絡など後回しで病院に駆け込み、今は薬の効果か、ずいぶんと楽になったそうだ。明日も大事をとって休みだという。

 そして、連絡は先ほど行われたらしい

 つまるところ、全てが全て勘違いだったということである。

 聞いてみれば何てことはないが問題はある。

 そういう話だった。

 そういう話で終わるはずだった。

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