後編

それから、春になり久しぶりに制服に袖を通した。

今年受験生っていう理由もあるが、何よりもりさに会いたかった。

最初は保健室登校ということで、教員と話し合って直ぐには無理かもしれないが新しい自分に自信を持って学校へ向かった。

とは言っても、同じ制服の人を見るだけで足がすくむ。

帰りたい。

でも、会いたい。りさに。

もう一度、今度はちゃんと言葉を発して。

その気持ちを持って学校まで歩き無事、保健室まで着くとあらかじめ連絡しておいたおかげか、先生が笑みを浮かべて迎え入れてくれた。

「加露さん、おはようございます。今日から頑張りましょう」

「は、はい!」

緊張した面持ちで、テーブルの近くにある清潔感のある白いソファーに荷物を置いて腰掛ける。

すると、先生がお茶とお菓子を目の前に置いてくれた。

「皆には、ないしょよ?今日は特別」

「あ、ありがとうございます」

ゆっくり、お茶をしながら今までのこととこれからのことを話す。

そして、どうして学校に来てくれたのかと聞かれる。

「勇気をもらったんです。あの!りさ‥宮奈りささんって今学校来てますか?」

その言葉に先生の目が大きく開かれた。

飲んでいたお茶のカップを置いてあるものを取り出して手渡してくれた。

それを手にすると嫌な予感が走るもそれを見ると、「卒業アルバム」と書かれていた。

それは、つい先日卒業生に配られたものであろうもので恐る恐るページを開く。

「え‥これって‥」

卒業アルバムには、卒業生の日常の楽しそうな様子が映っていた。

だけど、りさはどの写真を見てもあの笑みは浮かべてなくて、綺麗な顔は固まっていて一人孤立していた。

「宮奈さんは、あまり人と関わらないで孤立している生徒だったわ。

宮奈さんってきれいでしょう?

それで、誰かが『人形みたい』って言ったのが始まりでね、それから何か言われてたみたいでそこから孤立していたの」

りさが孤立?

だって、あんなに積極的で人懐こっい彼女がそんなことありえない。

でも、どの写真も人とは少し離れた場所で写っていて、集合写真でさえも皆笑ってる中一人だけ表情が固まったまま。

「あ、あの、宮奈さんは笑ったりしなかったんですか?」

「笑ったところは見たことないわね。

よく、ここにも来てたりしていたけれどいつも必要なことしか話さない、表情も変わったところは見たことない。」

そんな。だって、あんなに楽しそうに学校のことを話していたのに。

そっか、りさも一緒だったんだ。

誰かの言葉に縛られて生きていたんだ。

『人形』

そんなことない。だって、りさはあんなにも生き生きして誰よりも人間らしかった。

そして、最後のあの言葉を思い出す。

『ねぇ、きっと大丈夫だよ。もう、大丈夫』

あの言葉はきっと、自分に向けて。

そして、何よりも同じ姿を見た私に向けての最後の後押しだったんだ。

知られていく真実に心の中が痛んで、瞳から雫が溢れ出す。

「わ、私‥ずっと‥ずっと‥!」

元気付けられていたんだ。

最初の日からずっと、嘘までついて。

でも、その優しさと同じ境遇だったことが痛くて暖かくて。

そして、ずっと私は。

「好きだったんだ‥りさ‥!」

やっと、あの暖かさと胸の高鳴りの想いを知れた。でも、もう遅い。

彼女はここに居ない。

でも、残してくれたものがある。

先生が泣いている自分の横に来て背中をさすってくれる。

涙を拭わなきゃ。この思いは辛いものなんかじゃないんだから。

りさが笑っていたように強く明るい笑みを浮かべてこれから生きていく。

この恋心も胸に抱いてずっと。一生あなたを忘れない。

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甘い思い出 ルイ @5862adr

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