中編
それから、本当に彼女りさは毎日3時のカフェに居てそこに行く自分がいた。
最初は行かなければ良いと無視を決めこようと思ったが、りさの笑みが忘れられなくて、もっと知りたくて気づけば一緒にカフェに通っていた。
前と違うとこと言えば、フードを深く被っていることだ。
ボサボサの髪の毛を晒したく無くて、醜いと罵られたそれを隠すように俯いた。
紅茶にもケーキにも手をつけずただ、俯いていた。
それに対してりさは、楽しそうに学校の話をしていた。
「それでね〜!その時の男子が面白くて!」
とても楽しそう。
自分は何も返さないのに、よく続くなぁと頭の片隅に思いながらも聞き流す。
家の前で別れる間際で、りさが初日のように両手を握ってくれた。
「ねぇ、きっと大丈夫だよ。もう、大丈夫」
潤んだ瞳と何かを耐えてる顔を見て首を傾げるも、直ぐに笑みを浮かべた。
「じゃあね!」
そうして、大きく手を振って家の前で別れた。
そして、家に入って気づく。
悴んで赤くなった手を見て、寒くなってきたなと思った。
久しぶりに毎日こんなに外出することなんて無かったから、人と触れ合うことなんて無かったから。
手が冷たい。
なのに、心はドキドキと脈打ってる。
この想いが何なのかわからない。でも、もっとりさを知りたいと思う。
‥‥
翌日。
3時にいつも通りカフェの一番奥のソファ席に座る。
りさはまだ来ていないようで、紅茶だけ頼んで待つことにした。
少し遅れて来るのだろうかと思った。
だが、紅茶がすっかり冷めてしまってもりさは現れなかった。
冷めた紅茶を飲んで、支払いを済ませて店を出て家路をゆっくり歩く。
どうしてしまったのだろうか。
嫌われてしまったのだろうか。
不安になりながら、歩いく。
悴んだ手をこすりながら静かな家に帰った。
‥‥
それから、毎日3時のカフェに足を向けるもりさの姿は無く、冷めた紅茶を飲む日々を送っていた。
どんなに手が悴んでも、雪が降ってもカフェに通った。
でも、向かいの席の明るい光はそこに無く紅茶のカップをゆっくりとソーサーに置いて、もうわかりきったことを飲み込んだ。
そのままいつも通り一人家に帰り、部屋のゲーミング椅子に腰掛けた。
いつぶりだろう、この椅子に座ってパソコンに向き直るのは。
前まで毎日のようにパソコンに齧り付いてネットサーフィンをしていたのが懐かしい。
りさとカフェで会うようになって早く眠るようにしていた。
おかげで睡眠もちゃんとれて健康的な生活ができている気がした。
フードを外して改めて厚いメガネをかけた自分に改めて向き直る。
もしかしたら、りさは学校で自分を待ってくれてるかも知れない。
そう思った。
嫌われてても良い。ただ、もう一度会いたい。
このままじゃだめなんだ。
机の上にあった鋏を手に取り長いボサボサの髪に手をかけた。
ザクリッ
刃が髪をザクザクと切っていく。
床に散らばる自分の醜さの象徴。嫌な思い出が一緒に落ちていく感覚だった
そして、メガネを外して改めて自分を見て何度も深呼吸をした。
「‥大丈夫。大丈夫」
そう言い聞かせて新しい自分の姿の後ろにりさからもらった勇気が背中を押してくれた。
あの笑みが何よりも力をくれた。
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