第3話 巨大人口浮島〈メガフロート〉

 後日、改めてやって来た鏡さんに連れられて、俺と陽子は鏡さんの職場(?)に向かっていた。


「対異能力対策部でしたっけ?それって何処にあるんですか?やっぱり本庁とか?」

「いいえ。もっと見つかり難い場所です」


 まあ、俺が予想できる場所に建てる訳もないか。

 敵に狙われるだろうし、そもそも一般人が多過ぎて邪魔になりそうだ。

 なんて話していたら、車は漁港に停車した。


「着きましたよ」

「え?いや……何もないですよ」

「まあまあ。少し待って下さい」


 ピッと鏡さんがリモコンのボタンを押すと、海が競り上がってくる。

 小さな飛沫をあげ、海の底から出て来たのは小型の潜水艇だった。

 

「ここからは潜水艇に乗り換えます」

「乗り換えるって……え!?まさか……」

「はい。私たちの本拠地は海の上にあります」


 巨大人工浮島メガフロート——〈天照島てんしょうじま

 東京湾の上に浮かぶ、南北4km、東西1kmの細長い形状をした人工浮島。

 世間には公表されておらず、外部からの目視などは異能の結界によって阻まれいる。

 天照島には世界中の異能者たちや事情を知る一般人が数多く住んでいて、一つの街のように快適な生活を送れるそうだ。


 潜水艇で進むこと数十分。

 そんなにわかには信じ難い島に、俺は足を踏み入れた。


「ここが天照島です。ご感想は?」

「なんか……普通ですね」

「うん。普通の街みたい」


 島に降りた俺と陽子の感想は、揃いも揃って普通。

 だって、普通なのだ。

 木々は僅かで、高層ビルが立ち並ぶ。

 スーパーや飲食店、商業施設など生活に必要なものが揃っているごく普通の都会。

 そんな印象だ。


 でも、そんな俺たちの感想を受けて鏡さんは満面の笑みを浮かべた。


「そうです!普通なんです!突然異能が現れて、一般社会で暮らせなくなった子供たちの為に、できる限り変わらない生活を送れるようにと頑張ったそうです!凄いですよね!」


 これは……ちょっとガッカリした自分を殴ってやりたい。

 異能が現れた陽子は目に涙を浮かべてる。

 口には出さないが、不安があったんだろう。

 それを少しでも解消する為の、普通の島。

 それがこの街のコンセプト。


「それじゃあ行きましょうか」


 再度車に乗り、次に着いたのは大きな学校の前だった。

 車から降りると、スーツ姿の女性が駆け寄って来る。


「お疲れ様です。そちらが、例の?」

「はい。清水陽子さんです。案内をお願いできますか?」

「かしこまりました。では清水さん、参りましょう」


 女性に案内され、陽子は学内へと入って行く。残された、俺と鏡さん。


 空気が重い。

 言葉には出されなかったが、この島に来た時点で俺も陽子もなんとなく気づいていた。

 ああ、陽子はこの島で暮らすのだと。


 数秒間の静寂。

 鏡さんは重たい口をようやく開いた。


「里見さん。清水さんの事ですが……」

「分かってますよ。もう、普通の暮らしは出来ないんですよね」

「……はい。残念ながら。異能者が一般人と暮らすのは危険です。特に能力を制御できてない今は周囲に危害を及ぼす危険があります」


 まあ、そうだろうな。

 そんな気はしていた。


「どうして俺をこの島に?」

「黙って連れて行くのは、個人的に納得できなかったので」


 元々は陽子だけを連れて行くつもりだったのか。

 俺をここに連れて来たのは、鏡さんの善意。


「本来、この島に一般人の立ち入りは禁止です。本当に申し訳ありませんが、記憶を消させて頂きます。最後に、清水さんに伝えたい言葉はありますか?」


 どこに隠れていたのか、ゾロゾロと黒スーツ男が四人、俺を囲む。

 その中の一人の手に、注射器らしき物体。

 たぶんあれが記憶を消す薬だな。


 俺は両手を構え、迎撃の体勢を整えながら鏡さんの問いかけに答える。


「伝えたい言葉、ですか……ありません」

「——え!?ないんですか!?」

「そりゃないですよ。別に明日も会うんだし」

「明日も……?」


 別れの言葉というのは、長期間会えなくなる相手に残すものだ。

 俺と陽子は、明日も、その先も、なんならこの後すぐにまた出会う。

 だから言葉を残す必要はない。

 言いたいことは、俺の口から直接伝える。


 俺はポケットに隠していたあの日の拳銃——〈S&W M19〉回転式拳銃を取り出した。


「——それは!?」

「ダメですよ、鏡さん。危険物はちゃんと回収しとかなきゃ」

「か、かがみぃ!!」

「ひぃ!ごめんなさーーい!」


 スーツ男の一人、薬を持っていた強面グラサンが鏡さんに怒鳴った。


 わかりやすい。

 あの人がリーダーだな。

 だとしたら、狙うはあいつだ。


「ったく、部下の尻拭いは上司の務め。お前ら、やるぞ」

「「「はいっ!!!」」」

「大の大人が無能力者の子供一人に四人がかりですか。はぁ……情けない」

「あ?なんだと」


 よし、挑発に乗った。

 事実だし、もう少し煽るか。


「いや、別にいいんですよ。弱い者いじめがお好きなら。でもね。俺みたいな無能力のガキ相手にこんな真似するって事は、異能者の相手なんて到底できないんじゃないかなって思っただけです」


 一対四は流石に無理。

 だって銃弾一発しか残ってないし。

 狙いは一対一の状況に持ち込むこと。

 そしてそれは今、成功した。


「……その挑発、乗ってやるよ。気を失う前に少し痛い目を見て貰おうか」


 パキパキと指を鳴らす威圧感満載のグラサン男。

 構える銃口。

 ガチンとハンマーが撃針を叩く音が空に鳴り響いた。



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現代日本にはたして異能は必要だろうか 森林火林 @sou1234

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