第2話 家に帰ろう
陽子を連れてさっさと帰ろうとしたが、どうにも女性と陽子は知り合い(?)っぽい。
二人で話してる姿を遠くから眺め、まあ真面目そうだし先に帰るかと家に帰ろうとしたら、急に腕を掴まれた。
「どこに行くつもりですか?」
「いや、陽子も大丈夫そうだし帰ろうかと」
「普通、私が何者かとか気になりません?」
「気にはなるけど、聞いたら面倒そうなので聞きたくないっすね」
今回はあくまで陽子を助けたかっただけ。
俺は別に、自分から面倒ごとに首を突っ込むタイプではないのだ。
だけどそんな俺の意思とは裏腹に、女性はペラペラと内情を語り出す。
「私は政府公認対異能力者対策部隊所属、
女性は深々と頭を下げる。
別に鏡さんに協力した訳ではなく、陽子を助けたかっただけなのだが……
なんだか少しこそばゆい。
「いえいえ。お互い様ですよ」
「ですが、異能者の前に無能力者が立つのは危険です。反省して下さい」
「めっ!」と子供を叱るように鏡さんが指を立てる。怒られてしまった。
「すみません」
とりあえず、謝罪。
別に俺だって自分から関わったりはしないやい。
「よろしい。今後は無茶しちゃダメですよ」
そう言うと、鏡さんは陽子を自分の横に連れて来た。
「さて、いろいろ疑問はあると思いますが、何から聞きたいですか?」
いや、何も聞きたくないんですが……
だけど、逃がしてくれる感じもしない。
まあ気になってることはあるし、仕方なく俺はこの場で幾つか質問する事にした。
「じゃあ、異能者って?」
「異能……つまり、超常現象を扱える人間を指す言葉ですね」
さっきの男なら〈炎〉の異能。
鏡さんなら〈身体強化〉の異能かな?
「他にはありませんか?」
「えーっと、じゃあ……なんで陽子が?なんか、狙われてたみたいですけど」
正直、これが最大な疑問。
なんで陽子が狙われていたのか?
その答えは、恐ろしく単純なものだった。
「それは清水さんが異能に目醒めてしまったからです。異能者は希少なので、どの組織もその力を欲しがるんですよ」
困ったという表情の鏡さん。
いやいや、困ってるのはこっちだって。
陽子が、異能者?
てかどの組織もって、いろんな組織から狙われてるんかい。
「まあでも、安心して下さい。清水さんは責任を持って我々が守りますので」
ドンッと、ない胸を叩く鏡さん。
ぶっちゃけ不安だ。
だってこの人、さっきの男にやられてたし。
「………不安だ」
「何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
危ない。
心の声が漏れてしまった。
「質問は他にありますか?」
「いえ、特には」
「そうですか。それじゃあ今度はこちらの番ですね」
おっと、そう来たか。
とはいっても、聞かれて困ることもない。
なんでも答えてしんぜよう。
「貴方……えっと……」
言い淀んでいる。
そういえば名乗ってなかったな。
「里見志郎。高校一年生、帰宅部。陽子の幼馴染です」
「里見さん、ですね。覚えました。それでは改めて。里見さん、どうして拳銃を使いこなせたんですか?」
どうして?
どうしてと言われても……ねえ。
「どうしてですかね?」
「答えになってません!」
「いやいや、俺にもわからないですよ。まあ、人間一人くらい取り柄があるって言いますから、偶々ですよ。偶々」
決して納得はしていない表情ではあるが、鏡さんは全てを飲み込んだ。
「わかりました。今はそれでいいです。今は、ですけどね」
含みのある言い方だ。
まるで後から問い詰めてやると言っているように聞こえる。
さて、質疑応答タイムも終了。
鏡さんが呼んだであろう黒いハイヤーが二台、路上に停車した。
「さあ、今日は帰りましょうか。詳しい話はまた後日お伺いします。人払いにも限界がありますからね」
〈人払い〉
何か変な力を使ってたらしい。
だったらなんで俺は入れたんだろう。
疑問は残るが、答えてくれそうな鏡さんは既に車に乗り込んでいた。
「早く乗って下さい。人が来る前に」
「はーい」と返事を返し、急かされるまま車に乗り込んだ。
一台はさっきの異能者の護送用で、俺たちはもう一つの車の中に乗り込んでいる。
ここで、ようやく近づいた陽子に俺はなんとなく声をかけた。
「陽子、今の状況理解してる?」
「いやあ……実は、あんまり……」
テヘヘと照れ笑いをする陽子。
この仕草をするって事は、全くわかってないって事だ。
「部活帰りにいきなり襲われちゃって……逃げてたら鏡さんが助けてくれたんだけど、異能って何?って感じなんだあ」
「まあ、普通はそうだよな」
俺もそういう力があるよーってくらいしか分かってないし。
「でもね、志郎君が助けに来てくれた時、本当に嬉しかったよ。ありがとね」
「どういたしまして。ま、そりゃ助けるさ。俺たち幼馴染だし」
そこからは、他愛もないいつも通りの会話が続いた。
鏡さんも空気を読んでくれたのか、割って入る事もなく家へと辿り着く。
鏡さんによる両家保護者への異能説明会を終えた頃、時刻は日付を跨ごうとしていた。
明日からはいつも通りの日常を送れる。
そんな的はずれな期待を胸に抱き、俺は暖かな布団の中で意識を手放した。
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