現代日本にはたして異能は必要だろうか

森林火林

第1話 現代日本の闇

 ——現代日本。

 社会の闇には〈異能〉と呼ばれる超常の力を扱う者たちが潜み、その力で数多の犯罪行為を犯していた。


 なんて事実を知ったのは、今から一ヶ月も前の話。

 あの頃の俺は酷く無力で、何も知らないクソガキだった。



 ◇ ◇ ◇



「志郎。陽子ちゃんがまだ帰ってないみたいだけど、あんた探して来なさい」


 時刻は20時過ぎ。

 夕飯を終えてゴロゴロとテレビを見ていると、突如母親から家を追い出された。

 陽子とは、隣の家に住む同級生。

 まあ、いわゆる幼馴染の少女の名だ。


 清水陽子しみずようこ、16歳。

 俺と同じく高校一年生で、水泳部に所属している運動神経抜群のスポーツ少女。

 茶色のウェーブがかったボブカットがトレードマーク。


 帰宅部の俺と水泳部の彼女とでは帰宅時間が異なり、別に20時なんてなんて事ない時間だと思っていたが、母親の態度を見る限りそうでもないらしい。


「よーこー。何処だ〜」


 冷たい風が頬を撫でる。

 

 ふと、静まり返った路地裏に何か違和感を覚えた。

 視線を向けると、微かに見えた茶色の髪。

 何故か俺は、それが陽子だと確信した。


「陽子……?」


 その瞬間、俺の視界を激しい閃光が埋め尽くす。


「何だよ、これ」と驚き、目を閉じる。

 暫くして光が収まると目を凝らすと、そこには三人の男女が立っていた。


 一人はライダースーツに、穴あきグローブといったファンキーな男性。

 もう一人は長い髪をバレッタで留め、ところどころ焦げたスーツを纏う女性。

 そして最後の一人は茶色のウェーブがかったボブカットの女学生、陽子だった。


「そこの女学生を渡せ。そうすればお前は見逃してやってもいいぜ」


 男が低く野太い声を放つ。

 対して女性は、鋭い目つきで男を睨みつけた。


「あまり私をナメないで貰えますか」


 一瞬の静寂。

 瞬きの後、そこから始まったのは理解不能の現実離れした光景。


 女性が一瞬で数メートル先の男と距離を詰める。突き出される右拳。

 しかし男は両手を上げて灼熱の壁を作り、女性は慌てて距離を取った。


 え?早っ……いやいやいや。え?何これ?


 非現実的な光景を前に目を疑う。

 その間も繰り広げられる、超常バトル。

 そんな中、俺の目には陽子の姿が止まった。


 あ、助けないと。


 気づいたら、体は勝手に動いていた。

 陽子をこの場から引き離す。

 ただその一心で駆け出した俺だったが、それが悪手だった。


 先に気づいたのは女性。

 俺を見るなり驚嘆すると、なりふり構わず声を荒げる。


「え!?そんな……逃げて!!!」


 言われなくても逃げるっつーの。

 陽子を助けた、その後でな。

 

 俺は陽子の手を掴み、半ば強引に逃げ出そうとするが、気づくと目の前に男が迫っていた。


「邪魔だ。無能者」


 灼熱の拳が、腹部に刺さる。

 車にでも轢かれたかのように俺の体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「がっ!?」


 痛いなんてもんじゃない。

 異常なほどに腹部は熱く、打撃と火傷を同時に浴びせられた激しい痛み。

 倒れた体は思うように動かない。

 女性がなんとか戦っているが、どう見ても不利。

 陽子を守っているせいか、その動きは制限されていて、遂に女性も俺の横まで殴り飛ばされてしまった。


「どこから紛れたかは知らねえが、無能者のお陰で楽に仕留めれたな。礼を言うぜ」

「くそっ………卑怯者め……」


 俺も女性も、立ちあがろうとするが力が入らない。

 どうやら相当深刻なダメージらしい。


「放って置いても死にそうだな。んじゃ俺は、あの子を頂いて行くとするぜ」


 男が踵を返し、怯える陽子に手を伸ばす。

 その瞬間、俺の中でぷつんと何かが切れた。

 気づくと俺は、隣に横たわる女性に声をかけていた。


「何か武器は?」

「武器って……一般人に貸せる訳ないじゃない。それに……異能者に武器は通じない」

「所詮人間、通じないなんて事はない。いいから貸してくれ。大切な幼馴染なんだ」


 女性と目が合う。

 俺の真剣な訴えに折れたのか「はぁ」と息を吐くと拳銃が一丁、投げ渡される。


「弾は全部で6発。それで全部よ」

「恩に着る」


 狙うは両足。まずは、動きを封じる。

 拳銃なんてゲームでしか使った記憶がない。

 だけどなぜか、銃を撃つモーションは恐ろしく静かで、流れる所作で二発の銃弾を放つ。


「……あまいっ!!」


 男が両手を下げ、灼熱の壁が展開される。

 銃弾は熱で溶けたのか、男に当たった形跡はない。

 だが、それは想定内だ。


「異能者にたかが拳銃が通じるかよ!」

「通じるさ。もう既に、当たってる」


 炎の壁が消え、声高らかに叫ぶ男をよそに俺は再度銃弾を二発、両足に放っていた。

 一般的な拳銃の性能だと秒速340mで銃弾は放たれるとされている。

 秒速340m、音と同じ速さ。


 異能者に銃が通じない。

 それは多分、防ぐ術があるというだけで完璧ではない。


 男の場合、炎の壁を作れたが、一度作ると必ず解いていた。完璧ならば常に張り続ければいい。それをしないということは、ラグ的なものが存在すると予想した。

 そしてそれは、見事に的中。

 俺が放った銃弾は、男の両足を貫く。


「があ!? クソッ! テメエ、何者だ!」

「ただの幼馴染だよ。そこの女のな」

「ざけんな。異能者が無能者に負ける訳ねえ……負けていい訳ねえんだ」

「知るかよ、そんなの。じゃあな」


 残る銃弾は二発。

 そのうち一発を、動けなくなった男の頭部に放つ。

 ゴオッと燃え盛る炎が銃弾を溶かす。

 だが、それは一発目。

 まだ最後の一発が残っている。


「チェックメイトだ」


 パァンと乾いた発砲音が響く。

 男は糸の解けたマリオネットのように、力無く倒れ込んだ。


「空砲だよ。流石に人を殺すほど、覚悟決まってないっての」


 最後の銃弾を撃つ直前、俺は一発だけ弾を抜いていた。

 理由は単純、殺す度胸はまだないから。

 まあ両足を撃って行動不能だった訳だし、殺さずとも大丈夫だろう。

 そんな考えから、俺は最後の銃弾を抜いた。


 ふぅ、疲れた。

 救急車とか呼ぶべきだろうか?


 という眼差しを女性に向けると、首を横に振られた。

 どうやら黙っておいて欲しいらしい。


 なるほどなるほど。

 りょーかいしましたよーっと。


 異能なんて漫画やアニメの中だけだと思っていたが、知らないところで現代日本にも存在していたらしい。


 俺は離れたところで座り込む陽子と目を合わせ、微笑み合った。


 ははは……よく分かんないけど、これから一体どうなるんだろう?

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