1-3
翌日、眼を覚ました畑村は眼の痒みと目頭に付着しためやにも気にせず布団から飛び上がり、パソコンを起動し、SNSアプリを開いた。
メッセージ欄を見てみると、例の送り主がまだ一番上にいた。本来なら、畑村が朝起きた時には、真夜中にメッセージを送るファンがいる為、メッセージ欄の順番は大分変わる筈であるが、今畑村が目にしているのはいつもと違う光景であった。
恐る恐る畑村が昨日の送り主のチャットを押すと、そこには「相手がメッセージの送信を取り消しました。」という文が数十個出てきた。
それを見た瞬間、畑村の頭脳は、一瞬にして察した。
畑村 「こいつ、俺が寝てる間に大量にメッセージ送りつけてやがったんだな。」
そのことに気づいた畑村は、昨日と同様、恐怖心から怒りへと再度変貌した。
畑村 「このクソ野郎許さねぇ」
畑村は、マウスのボタンを破壊する勢いで、相手をブロックするボタンを押し、思いっきり扉を開いて自身の部屋を出た。
リビングに繋がる廊下を歩く途中、あまりのイライラに、ドクンドクンと脳が痛むのを畑村は感じた。
頭を抑えながらリビングの扉を開くと、ダイニングに設置してある綺麗なテーブルには、朝食が準備してあり、キッチンには、母親の「畑村君江」(はたむらきみえ)が立っていた。
君江 「じゅんくん一応ご飯用意してるけど食べてく?」
畑村 「まだ時間あるから食べる。お父さんもう行った?」
君江 「お父さん今日取材あるからって朝早くから出て行っちゃった。」
畑村一家は長男の純一以外にも皆そこそこ優秀で、母の君江は、専業主婦に兼ねて、進学率が畑村の住んでる地方で最も高い塾の塾長を勤めており、父の吉徳(よしのり)は、大手放送局の記者をしている。高校の時は、陸上の全国大会で、走高跳、走幅跳両方入賞という成績を果たしている。
話は戻り、畑村が朝食を食べながら、テレビを観ていると、母親が、朝のニュース番組にチャンネルを切り替えた。
するとそのテレビ画面には畑村の父親である。吉徳がそこには映っていた。
君江 「あら、お父さん早速出てるじゃない。」
父は有名な記者だったため、何度もテレビに映っており、畑村家の人間には珍しくも感じなかった。
テレビに映っている吉徳の背後には、閑静な住宅街にある一般的な一軒家が映っていた。
その画面の下側には、
「中学一年生の女子を監禁「自身の娘だと思い込んでいた。」と犯人が証言」
という、衝撃的な一文が表示されていた。すると、テレビ内の吉徳が口を開く。
吉徳 「今朝、X中学校の一年生林田莉奈さんを監禁した疑いで、上田和大容疑者が逮捕されました。上田容疑者は、1ヶ月前、遊びから帰っている林田さんを自宅へ招き監禁し、自身の我が子の様な扱いをしていたと判明し、警察が家宅捜査をした後、林田さんは無事見つかり傷などはなかったそうです。上田容疑者は「自分のかつて死んだ娘の様な存在が欲しかった」と容疑を認めている様子です。」
君江 「やだ、じゅんくんも気をつけなさいよ。あんたみたいな優秀な人材、誰かが狙ってもおかしくないからね。」
畑村 「や、やだなやめてよ。」
その君江の一言は、冗談だと分かっていても、畑村には、強く刺さっていた。
畑村 (本当に誘拐なんてされたらどうしよう。)
彼の自分自身への自信が、その恐怖を生み出していた。畑村は、とにかく沢山の人の温もりを感じたいと直感し、母を置いていく様に家を飛び出た。その背後で、
君江 「ちょ、じゅんくん!?」
と叫ぶ母の声が聞こえるが、畑村は全く気にせず、無我夢中で学校へ向かった。
悪い影 原 耕貴 @tyokoti
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