もう一人の子
第5話
「どうした源心、顔色が優れないようだが」
「いや、そんな事は……」
万が一三人目を見つけたとして、願い通り世界を手にする力を得たとする。果たして俺は、それで幸せを感じて生きて行く事が出来るのだろうか。
誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなど、虚しいものでしかないとずっと思いながら生きてきた。しかしながら、その甘い考えが結局多くの犠牲を出したのも確かであって、生温い考えはこの世の中無意味でしか無い事も知った。
「血を流さず平和に暮らすなんて、夢のまた夢なんだろうか……」
「何だよ源心、お前武士か何かなのか?」
「元々はな。負けて国を追われたから、今は何者でもないが」
「ほぉ。何でそんなにグルグル巻きなのかと思ったら、そういう事か」
「あぁ、情けないよ本当に」
俺はヤーゴイの者への懺悔の気持ちを少しでも紛らわせようと、自分の失態で国を討たれた事を二人に話した。
「まぁ、そう気を落とすなよ。お前すげぇ優しい奴なんだな。俺はそういう一風変わった奴嫌いじゃねぇぜ」
「汪羅……」
「俺も汪羅と同じだ。源心、お前は間違っちゃいない。戦なんてそもそも起こすもんじゃないんだ」
「妙玄……」
「まぁでもそうだなぁ、もしもお前が天下人なら、皆んなお前の言う事を聞くんだろうけどな」
「汪羅?」
彼の柔軟性にとんだ物の考え方には脱帽だ。もしも俺が世界の頂点に立つ者であれば、誰もが俺に従う事になる。すなわち、戦を禁止してしまえばてっとり早いと彼は言って退けたのだ。
「まぁ、天下統一なんてそもそも無茶な話だよな。あははは」
彼の笑い声が響く中、俺は複雑な思いでいっぱいになっていた。ガラムの伝説を実現させ天下を取れば、たった三人の犠牲で数えきれない程の人々が戦から解放される事になる。
「汪羅……頼みがある」
「何だよ、どうした」
「同じ龍の瞳をしたもう一人を探し出して欲しい。その役目は君にしか果たせない事なんだ」
「そ、そうなのか⁉︎」
「あぁ。もしもう一人が見つかれば、この世から戦は消える……。それだけじゃない、貧富の差も差別も、何もかも無くす事が出来るんだ」
「お、俺は学がねぇからよく分からねぇが……。まぁしゃあねぇな。盗みを働くしかやる事ねぇし、面白れぇ。いっちょその話に乗っかってやるか」
もう引き下がる事は出来ない。ここで迷えばヤーゴイの二の舞だ。国の者を守るために刀を抜くと言った父の声がこだまする。世界中の者を救うためには、三眼の三つ子の力が不可欠だ。そのためには心を鬼にしなければならない。これはきっと、俺の使命なんだ。
「妙玄、世話になった。明日ここを発つ」
三眼伝説 ガラムの子 鯉ノ御影 @OJ333
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