第4話

「こりゃ驚いたなっ、本当にそっくりだっ」


 妙玄みょうげんに瓜二つの汪羅おうらというその男は、土埃だらけになった身体をポンポンと払うと、マジマジと妙玄の顔を見た。


「そ、それにしても君はこんな所で一体何を?」


「見つかっちまったから白状するが、ちょっと金目の物をね」


「こんなど田舎に金になる物なんて」


「えっ⁉︎ でもここは武器生成の資源で溢れかえってるんだろう?」


 なんと汪羅は、ヤーゴイとガラムを間違えてやって来てしまったらしい。何ともお粗末な男だ。それにしても、この世には三人程似ている者がいるという噂話を聞いた事があるが、目の前にいる二人は似ているというレベルを超えてしまっている。俺には見分けがつかない。本人達が知らないだけで、もしかしたら生き別れの双子という可能性もある。


 この時代、多胎は畜生腹といって世間様に易々と受け入れられるものではない。妙玄の母上が苦渋の末、片方を手放したとしても何らおかしくはない。


 もしかしたら、二人は双子かもしれないぞ。そう言おうとしたその時、汪羅が驚くべき言葉を発した。


「へぇ、妙玄。お前は見た目もそっくりだが目ん玉の中まで一緒だとはなぁ。こりゃ驚いたぜ」


「目ん玉?」


「ほら、よく見てみろよ」


 汪羅は人差し指と親指で右目をひん剥くと、ググっと妙玄に近づいた。しかし、残念ながら俺と妙玄は何の事だかさっぱり、黒々とした瞳がキョロキョロしているようにしか見えない。


「汪羅、君も少し休んだ方が良いんじゃないか」


「何だよその顔は‼︎‼︎ お前達も俺の事をホラ吹き呼ばわりするのか」


 どうもこの汪羅という男、国ではホラ吹き男として認知されているそうで、年老いた爺さんと暮らしていたものの、その爺さんも亡くなり、今は一人、盗人をして生計をたてているらしい。ようは働きたくても雇い先が無いのだ。


「もう一度よく見てみろよ。お前にも右目に龍の模様があるだろう? 俺は赤、お前は白。俺は気に入ってるんだ、でもよ、皆んなホラ吹きだって言うんだぜ……。お前なら分かってくれるかと……」


 ‼︎⁉︎


 おそらく、妙玄は何の事だか理解出来なかったのだろう。なぜなら、彼は間違いなくガラムの伝説を知らない。伝説発祥の地ガラムでも、もはやその伝説を知るものは少ないと言われている。何故他国の俺がその伝説を知っているのかは分からずじまいだが、おそらく妙玄、汪羅は双子ではない。赤龍眼を持つ汪羅と白龍眼の妙玄。あと一人、どこかにいる。あと一人見つければ、俺は世界を手にする力を得る事が出来るのだ。


 国を取り戻し、父が成し得なかった天下統一を叶える事が出来る。せがれが世界の頂点に君臨したとなると、父も鼻が高いだろうし、認めて下さるだろう。


 しかし、そのためには目の前にいる二人を殺める必要がある。その心臓を陽光の祠に祀らなければならないからだ。手当をし、粥まで出してくれた妙玄。奇妙な男だが、人懐っこい汪羅。何の罪も無いこの二人を俺は手に掛ける事が出来るのか。

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