瓜二つ

第3話

 所持品を敵国に根こそぎ奪い取られた俺は、約五十キロの道のりを馬なしでひたすら歩く事になった。それもこれも、あの伝説に賭けているからだ。


 しかし、水も食料もない中体に鞭を打って無理を強いていたもので、なんとかガラムに辿り着いたものの、俺は情けないかなその場で気を失ってしまった。


「あれ……」


「気がついたか、良かった」


 ふと気がつくと歳は二十歳やそこらか、俺と同じ歳くらいの男が横たわる俺を見下ろしていた。


「君は……」


「俺は妙玄。それにしてもどこから来たんだ。ボロボロじゃないか」


 彼はズル剥けになった俺の足元と切り付けられた目元を綺麗に消毒し包帯を巻きつけると、温かい粥を差し出してくれた。空腹に塩気のある柔らかな粥が沁みる。俺は一粒、いや一滴残らずそれを平らげると、ここガラムに三つ子がいないかどうか早速確かめる事にした。


「三つ子? 長年ここで暮らしているが聞いた事ないな。母さんなら知ってるかもしれないが。あいにく三日程帰らないんだ。まぁ、三つ子なんて産まれてりゃ噂話くらいは耳に入ると思うんだけどな」


 ガラムはヤーゴイ以上に小さな国。多胎と呼ばれる摩訶不思議な子どもが産まれれば、どこかしこから話は入るはずだと妙玄は言った。心のどこかで分かってはいたものの、こうも早く夢破れる結果になるとやはり滅入ってしまうものだ。父に勘当され国を追われ、今や帰る場所もない。国を取り返す武力も無ければ父のような勇気も無い。名将のせがれとしては情けない限りだ。


 その夜、俺は一晩妙玄の家に世話になる事になったのだが、どうもガタゴトと騒がしい。風が強いわけでも無く、鼠や猫が走り回っているわけでもない。


「妙玄、いつもこうなのか?」


「いや」


「まさか盗人か?」


「こんなど田舎、取るものなんてねぇさ」


 そう妙玄は言うものの、やはりガタゴトという騒がしい音は鳴り止まない。俺は意を決して音の鳴る方に足を進めてみた。


「⁉︎ みょ、妙玄⁉︎」


「ん、どうした源心」


「え⁉︎ みょ、妙玄が二人⁉︎」


「な、お、お前っ、えっ⁉︎ だ、誰だお前⁉︎」


 ガタゴトと音を鳴らしていたのは、まさかのまさか、妙玄と瓜二つの男だった。

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