第3話

 そうして森を素人ながらに警戒しつつ歩いていると、大きな音が森の奥から聞こえてきた。

 思わず方をビクつかせて音がした方向を見るが、木に邪魔をされてなんの音だったのかは全く分からない。


 ……本来なら、近づかない方がいいと思う。

 ただ、俺はこの世界の情報を何一つとして持っていないんだ。

 このままさまよっていても街にたどり着ける保証なんて無いし、少しでも人がいる可能性があるのなら、多少の危険があったとしても、そっちに向かった方がいいんじゃないか? というのが俺の思いだった。


「……ふぅ。行くか」


 PBピストルをしっかりと両手で構えつつ、俺は深呼吸をしてから、音がした方向に方向転換をして、進み出した。

 

 そうして、森の中を進んだところで、何かと戦っているような声? が聞こえてきた。

 ……戦闘……一瞬だけ足が竦み、フルオート銃を出した方がいいんじゃないか? という思考に至ったが、フルオート銃が俺に扱えないことはもう分かりきっていることだと首を横に振り、そのまま声がした方に向かって進んだ。


 その結果、俺の視界に見えてきた光景は普通の高校生であった俺に吐き気を催させるには十分すぎる光景だった。


「くっ……」


 そんな吐き気を我慢しながら、俺は何とか状況を理解しようとした。

 街道らしきものが見えた……まではいい。

 問題はここからで、二足歩行の豚……元いた世界によくあった創作物でいうところのオークに荷馬車が襲われている。

 ……それだけならまだ良かったのだが、地面には護衛らしき人間が血を流して倒れている様子も見て取れる。一応、オーク(仮)も何匹か一緒に倒れている。……これが一番俺の気分を害している要因だ。


「クソっ……怖がるな、怖がるな、怖がるな」


 襲われている人達が善人なのかは分からないが、選択肢の少ない俺は襲われている人達が善人な可能性に掛けて、恩を売るために震える足を何とか押えながら、声を発する。


「助けは必要ですか!?」


「ッ、助けてくれ!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はオーク(仮)に向かって走り出した。


 怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 確かな恐怖心を抱えながらも、走った。

 オーク(仮)は完全に俺の事を舐めているのか、俺が近づく様子を見せても何も反応することは無かった。

 その結果、俺は素人の俺でも弾を外さずに当てられるだろうという距離まで近づくことに成功した。


 そして、引き金を引いた。

 何度も何度も、銃に入っていた弾を使い切るまで引き金を引きまくった。

 サプレッサーが優秀なのか、音はかなり静かだった。

 俺がカチカチと引き金を引く音だけがその場に残る。

 不思議な感覚だった。

 

 腕が痛い。

 初めて自分の意思で生き物を殺したということで精神的にも疲れた。

 ……でも、俺は無理やりにでも笑って、そんな感情を一切表には出さなかった。

 意味があるかは分からないが、舐められる訳にはいかないと思ったから。


「大丈夫ですか?」


 そして、俺はそう聞いた。


「……え? あ、あぁ、ありがとうございます! あなたのおかげで助かりました。一体なんとお礼を言ったらいいのか……」


 すると、荷馬車の中に居た、オーク(仮)と戦っていなかった40代くらいの男がそう言ってきた。


「いえ、気にしないでください」


「いえいえ、そういう訳にもまいりません。ほんの気持ちですが、是非、こちらを」


 そう言って、男は俺に袋を手渡してきた。

 言われた通りに袋を受け取った俺は、想像よりも重かったことに少しだけびっくりしつつ、中身を確認した。

 すると、金のメダル……金貨? が沢山そこには入っていた。

 ……金貨の価値が分からないから、なんとも言えないけど、これ、結構な大金なんじゃないのか?


「それでなんですけど、もしも宜しければ、街まで私の護衛に加わってくれはしないでしょうか? 先程の戦いを拝見させていただいた限り、かなり実力を持った魔法使い様のご様子でしたので、是非、お願いできないでしょうか? ……もちろん、生き残ってくださった他の護衛の皆様を信用していない訳では無いのですが、やはり数が減ってしまいましたからね」


 それでこれだけの大金を渡してきた、ということか? 本当に大金なのかは知らないけどさ。

 ……まぁ、断る理由……は無いこともないけど、断らない方がいい、よな。

 俺にとって好都合なことに間違いは無いんだし。

 

 と言うか、俺、魔法使いだと思われてるのか。……そもそも、魔法がある世界なのか。

 ……この銃が杖かなにかにでも見えてるって事なのか? ……まぁ、この反応を見る限り、この世界に銃は無いっぽいことが分かったし、勘違いされる分には俺が悪い訳じゃないんだから、別に訂正する必要も無いか。


「分かりました。もちろん構いませんよ」


 ……取り敢えず、後でこっそり新しい銃に入れ替えるか、弾の入ったマガジンを出せないかを試してみよう。

 そう思いつつ、俺は頷いた。

 ……さっき戦えたのは相手がもう一体しか残っていなかったからこそだから、もう魔物? が街まで出ないことを祈りながら。

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突然異世界に転移した俺はユニークスキル【銃火器】を使って無双……は出来なさそうだから代わりに奴隷に無双してもらうことにした シャルねる @neru3656

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