死神は今日も

殻斗あや

1話目

冷たい雨が左手のひらの柔らかくてかつ破けたところに染み込む。恐怖は自然とこぼれはせず、でも後悔だけは人一倍には強くなっている。先ほどまで運転していたバイクは思ったよりも原形はとどめている。だが肝心な自分、特に感覚がない右側のことを心配せずにはいられなくなってきた。こんな暗闇で、車もほとんど通らない田舎道でこんなことを考えても無駄であることなどわかっているが、どうにかこの左手だけでもと、ポケットをまさぐるが、スマホはない。そうだ、カバン...どうやら大きい塀にぶつかった衝撃でとんでいってしまったようだ。なぜこうなってしまったのかという後悔だけがただ俺に染みついている。助けを呼ぼうにも、助かるという自信がないことを悟りきってしまうと声は出なくなってしまった。そう言っているうちに左頬に痛みのほかに寒さも感じ始めていたころ、左、いや寝転がっているから上かな。そこから微かな声が聞こえてくる。

「...ているようだ...。」

あぁ、耳までやられてしまったのだろう。何も理解はできない。

「しょうがない。」

「!!」

その瞬間、沸き立つような感覚とともに耳の感覚が鮮明になった。

「がぁぅぅぅぅぁああああああああ」

その瞬間先ほどまでは嘘のように痛みと感触が戻る。

「これで聞き取れるようにはなったな。」

「な、なんだぁぁぁぁぁ。」

姿も見えないその何かに無我夢中で声を張り上げる。

「ギリギリ生き残り、かつ聴力と思考力は残るように神k」

やばい、また意識が飛ぶ。

「何してるんだ。」

「え?」

先ほどまで来ていた眠気はまた寒気と痛みに変わる。

「う、うわぁぁぁっぁあ」

気づかなかったが右半身のどこかが切れているのだろう。雨とは別の液体のぬくもりを感じる。

「焦っていたって何にもならない、ただ私の声を聴けばよいのだ。」

意味が分からない、というか、なんだこれ!

「はぁはっぁあああぁぁあ」

「うるさいなぁ、私が今お前をすぐ殺すことだってできるんだぞ?」

「なんなんだ、お前h...」

やばい意識が

「しゃべるなと言っている!!!!!」

その叱責と同時に、また大粒が降るたびに痛みを感じるようになる。

「やっと静かになったか、」

死にかけたのなんて人生で初めてだが、気を失いそうなときにこんなに戻されることなどあるのだろうか。

「神経系を少しだけ修復した、といってもほんの少しだから今お前が私に逆らったらその瞬間にお前は死ぬ。」

「なにも...できません...よ」

ずっとぎりぎりで耐えさせられる身体を絞ってそう返す。

「初めからそうしろ。」

その瞬間急激に左半身が一気に重くなるのを感じる。

「こんなにうるさい奴はこれまでで初めてだ、次喋ったらどうなるかわからないぞ。」

いや、何もできないし、今すぐにでも死にそうなんだが。

「死ぬだなんて、私が生かしているといっているだろう。」

...は?

「いま...何も...」

「私は死神だ。お前の考えていることくらいわかる。」

そ、そうなのか。...死神と言われて変に納得してしまう自分に驚いている。

「まぁ四六時中、人の頭の中を覗き込むなどという悪趣味は持っていないから安心しろ。お前ばっかりにかまっている場合じゃないんだ。」

「は...」

その瞬間意識がやっと落ちていくような感覚に陥る。眠気みたいな、何だこれは。

「...ふー、」

少しだけ息を吐きながら痛みを体外に放つような感覚で、これまでもいやこれからも味わうことはないだろう。が、癖になりそうではある。そしてそこでようやく自分の意識の糸が...


「お前に3つだけ命令をする。」


1,5人から寿命を合計10年奪ってくること

2,必ずお前が自分の寿命が尽きるまでに奪ってくること

3,絶対に口外しないこと


報酬はお前の残りの寿命だ。そして...そうだな、、、


その時間はお前が寿命を奪った人の”お前に対する愛の量”で決めてやろう。

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死神は今日も 殻斗あや @Aya_wears_a_hat

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