その文学少女は本を読む

ゆずリンゴ

文学少女は現実を生きる

―――ペラ、ペラ、ミステリー小説のページをめくる。


私、本道詠ほみちよみは今ベットに横たわり、足をブラブラとさせながら先週に買った小説それを読んでいた。


時刻は22:00。私は高校の課題を済ませ、寝る予定時刻である23:00までの1時間を小説を読む時間に当てていた。


スマホを触るわけでもなく、学友と連絡を取るでもない。読んでいるのは漫画でも電子でもなく、紙媒体の小説だ。こんな私は現代人の中でも中々に珍しいと思う。


そして、こんな私に疑問を持つ人は少なくなかった。小さい頃、大体小学生低学年の頃から私は文学の持つ魅力に魅入られていたのだ。


あの頃から、同級生の男の子が校庭でやるサッカー、女子がキャッキャとウフフ、としている会話に混ざる事無く私は席に座って本を読んでいた。

クラスメイトが遊びに誘ってくればそれに乗っていたが、それよりも本を読む時間の方が好きだった。


だって、クラスメイトの女の子のする会話は興味のない男の子についての恋愛話か、顔の整った芸能人に関するもので、私の探究心をくすぐるものでは無いし……体を動かす様なことに至っては元から得意でも無いので体育の授業だけで十分なのだ。

何より、元より騒がしいのが好きじゃ無かった。


その点、本はいい。本に見入っている時は周りの音すらも聞こえなくなって、自分だけの世界に入り込んだ様に思えるし、自分の知らない世界が広がっていく感じは胸をワワクとさせる。

それに体を動かす事も無いから疲れな……いや、長時間読んでいれば目は疲れるし、手も疲れてくるか。


とにかく、私は本が好きなのだ。


特に好きなジャンルはミステリー。

別に恋愛系やライトノベル、それこそファンタジー系なども好きだけれど、その中でも群を抜いてミステリーが好き。


最初は何も知らない真っ白なキャンパスのような状態から、少しずつピースがハマっていき……最後まで読むことで真実に辿り着くいて、全てのピースがハマった時の高揚感は中毒性すらも感じる。

とはいえ、後の展開が予想でてしまうことや、途中で真実に気づくこともある。

しかし、そういった場合には答え合わせ、という楽しみ方もできるのがいい。


「はぁ〜〜!作中の時系列違ったのねぇ……だからあんなチグハグ感が…」作中における核心に触れる場面に至り、思わず感想が漏れ出てしまう。


あぁ、この高揚感がやはりたまらない。

もうすぐ寝る時間だというのに、この展開を思い返しては興奮して目が冴えてしまいそうだ。



「―――ねぇ、本道さんって小説読むの好きなの?」

「……」

「あの、本道さん」


大学の講義と講義の合間、私が本を読んでいると何だか気の弱そうな男の子に声をかけられた。……周りは大学デビューか何かで髪を染め、騒がしい人が多い中で、物静かな印象を持つ青年だ。初対面かどうかは、覚えていない。


「……なにか用かしら?私、今忙しいの」

「あぁ、えぇと……本道さんってよく本読んでるから……文芸サークルとか興味無いかなぁと思って」


どうやら、彼はサークルの勧誘に来たらしい。


「……無いわ」

「え、あ…そうなんですか?いつも読んでるから好きな物だとばかり……」

「本を読むのは好きよ」

「え……なら―――」

「私は読むのが好きなの。創作の方には興味がないの」

「一回書いてみれば……」

「……興味がないの」

「体験だけでもどうか!」


…なぜ彼はここまでしつこいの……?。


「あの……本当に、今…サークルの人数が足りないというか…一人抜けちゃったせいで。あの、本当に……すごく、困ってるんです!話だけでも―――」


無理やり聞かされた話を要約すると、どうやらサークル内のカップルのいざこざの結果、何人かが抜けてしまい、サークル継続に必要な人数を切ってしまったから入って……と言った感じらしい。


「ダメですかね?」

「ダメね」


私は、本に関して目が肥えている。仮になにか作品を作ったとして自分が納得できる作品を作れる気はしない。

第一に作品の本になるような面白い経験もなければ、人を感心させるほの構成と内容を作る知能も、発想も無いのだ。


「あの……幽霊部員でも良いので、どうかお願いします」


……なぜ、こうも諦めが悪いのか。


「そういった不真面目な事はしたくないわ……入る予定は無いけれど、貴方はどんな物を描いてるの?」

「っ、はい!僕はミステリー…有名な作品のタイムパラドクスに近いものを」


……タイムパラドクス、彼の口から出た

それは私も好きな作品だ。


「良かったら貴方の書いてる作品、読ませてくれない?」


別に、入る気は無い。興味が出ただけだ。



「詠さん!お勤めご苦労様です!」

「うん、ただいまはじめ君」

「新しい小説の原稿出来たんですけど……読みます?」

「……前回は世間でも話題なっていたけれど今回はどうかしら?」

「ふふ、今回も自信作です!」


そうして私は会社から持ち帰った書類の詰まった鞄をソファに乗せ、紙をめくる。










































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