第6話 雪の妖精伝説
目を覚ますと今までが嘘だったように空が晴れ、太陽が覗いている。太陽ってあんなに明るかったんだな。見たとしてもいつも雲の隙間から出る太陽しか知らなかった僕ははじめての快晴に心が浮き立った。
「ねえ!スノーラ、晴れてるよ!山が、晴れてる!」
あたりは静まり、誰もいない。ただ、人が住んでいた生活感がここに残されている。
「おーい、スノーラ!どこにいるんだ!!」
「おーい!おーい、スノーラってば!!」
探した探したのに見つからない。どうしようもない不安が焦燥が胸を覆う。
――どこ!?どこにいるんだ!!
見つからない。
「晴れている方が好き?」
今から思うとおかしな質問だった。まるで、天候を操作できるような。スノーラは熱がダメだった。僕の肌に触れるだけで歯を食いしばるような痛みが襲われて……。
――そんな、僕は僕はなんて答えた?
「うん」
そう答えた。そして今、晴れている。信じられないことに積もっていた雪はどこにも見当たらなかった。
氷狼は?そもそも氷が見当たらない。スノーラの服は?僕が起きた場所に重なるように昨日彼女が来ていた防熱服がそのまま置かれてあった。
そんな、そんな。服の中を急いで探す。お願いどうか見つからないでくれ。
現実は非情だ。スノーラの着ていた服の中に握り拳二つ分ほどの巨大な魔石が入っていた。
――魔人は死ぬと魔石を落とすから人間じゃないんだ。
父は確かにそう言っていた。彼女は魔人だ。それもかなり上位の。
「信じない、信じないぞ。スノーラが死んだなんて――
――スノーラが生きていなくちゃ晴れていても生きていても意味がないじゃないか!」
僕がはじめて助けられて、スノーラの温かさを知った場所。ここにスノーラの魔石を置く。彼女の魔石が人間に使われることは防ぎたい。
「スノーラ、君は怒るかもしれないね。でもきちんと説明しなかった君のせいでもあるんだから許してくれよ」
落ちている料理に使うナイフを首に突き立てる。
「どうしたの今日は?」「一番幸せ」
満足そうに幸せそうに笑う君はどんな気持ちで言ったんだろう。
生まれ変わりがあるなら次こそはスノーラ、君を絶対に逃さないからね。
風に乗って、微かに聞こえた気がした。
「ユート、ありがとう。……大好きだよ。」
――僕も大好きだよ。
金鉱山の麓にある村ではある言い伝えがある。雪が降る晩、山の頂上で仲睦まじい男女の陰が二人並んで星を眺めているという。その星空を見た人々は、愛する人と必ず再び巡り会えると信じている。
「雪の妖精」は今でも、心優しい少年とともに、空を見上げる全ての人に微笑んでいるのかもしれない。
氷に閉ざされた世界で交わる赤い糸――生贄少年と雪の妖精 コウノトリ @hishutoria
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