サイケデリック人魚のタスマニア鳥居収集(in ユニバーサルサバンナ・恋する夕暮れの味)
遊月奈喩多
ライラック婦人の黄昏と憂鬱 at パラライゼーションフィールド
「鳥居取りに行かなきゃ」
行かなきゃ行かなきゃ。
鳥居が必要なの。
キラキラしてて、眩しくて、ツルツルで、つやつやした鳥居があれば、きっとあの人はわたしを見てくれるはずだもの。ゼッタイ鳥居集めなきゃダメ!
せっかく何もかも捨てて地上に来たんだもの、ここまで来たのにあの人にそっぽ向かれっぱなしはイヤ!
鳥居!
トリイ!?
トリック!
トリック・オア・トリート!
カラフルでキレイ!
ほら、鳥が歌ってる、囀ずってる!
窓の向こうで鳥居が呼んでる、ううん呼んでいるのはあの人、鳴っているのはサイレン、ううん鳴いているのはチャペルの鐘!
歩いているのは荒野?
ううん、ここはパラダイス! だってあの人が溺れていたんだもの、ネオンがギラつく目で犠牲者を探す海原で、あの人が溺れていたんだもの、あの人が迷っていたんだもの、わたしが囚われていた海を、泡のなかでただ日々を数えるだけだったわたしの前に、あの人が現れたんだもの!
ガラスを踏む足取りで! 声の上手く出ない喉で! 鳥居を集めに行くの! L羅螺鑼蠡裸喇拉a
追いかけて、逃げないで。
逃げてなら、追いかけて。
紫色の月。
紺色の通行人。
赤いカラスたち。
緑色の横断歩道に飛び込んで。
青いアスファルトを泳いで。
シーツが絡み付く。
ローションの波濤、エアマットの絶叫、マウスウォッシュの葬列。泡が纏わりつく、あの人を追いかけさせてくれない!
メリーゴーランドの交差点、シャンデリアが浮き沈みしてキャミソールを引き裂いて、電線が鏡を壊してみんなの心に伝染していく、コップのなかで鯉が泳いでいる、夕暮れのタスマニアから雨が降ってくる、バターの雨だ、黒いバターが灰のように肺に降り積もっていく、バターが粉になる、粉末のバナナが骨を崩していく、メリーさんの電話、羨ましいな、メリーさんみたいにあの人の後ろに行ってみたいな。
見たいな、見たいな、全部見たいな。
視界が、市街が、演舞シュタイナー。
誰、こっちを見るのは誰!?
シュタイナーが見ている、月に照らされてわたしを見ている、名前なんて知らないのに、そうだあれはわたしが声を預けた魔女だ、足を譲った魔女だ、わたしに痛みと喉の乾きを与えた魔女だ!
シュタイナーが踊りながら嗤う。
期限が迫ってきたぞと嗤う。
街頭広告から見ている、オーロラビジョンが埋め尽くされる。目が、目が、目が、目が、目が見てる、目が追いかけてくる、目が迫ってくる、目が呼んでくる、目がきっと来る、目が連なってくる、目が泳いでいる、目が走っている、目が佇んでいる、電柱の陰にも、氷柱の向こう側にも、火柱の中にも、竜巻の上からも、目が降ってくる、目がこぼれている、見ないで、痾錏吾ア閼阿鴉娃嗚呼襾あ會
鳥居を潜らなきゃ、鳥居に入らなきゃ、そうだ鳥居を集めたかったんだもの、鳥居をプレゼントしたらあの人は喜んでくれるから、鳥居が引っこ抜けない、波止場の鳥居、口の中の鳥居、ドアノブの鳥居、コオロギが鳴いている、砂漠の鳥居が歩いている、モノリスが嗤って、シマリスが合唱して、リストカットが蠢いてわたしを急き立てる。
早く、早くと怒鳴ってる!
端役、端役と責め立てる!
街のイルミネーションが静かで。
サイドミラーの中で電話が鳴る。
響く足音は、死神の誘い?
電車が揺れて鳥居を轢き潰していく。
薙ぎ倒される。
押さえつけられる。
やだ、やだ!
枕木を震わせてライトが迫る。
やだ、やだ!!
冬の夜を震わせてあの人が逃げる。
やだ、やだ!!!
色が褪せて取り残される。
やだ、やだ!!!!
身体が震えて心が潰れていく。
やだ、やだ!!!!!
夜が戻ってくる、
「やだ!!!!!! やだ!!!!!!!」
やだ!!!!!!!!
やだ!!!!!!!!!
「やだああああ!!!!!!!!!!」
どんっ
グシャッ
ぶちゅっ
* * * * * * *
「あー、この辺で遊ぶのは辞めといた方がいいよ」
「キャッチの人がそれ言います?」
「あそこのビルあるでしょ、そう、そこ。この辺じゃ一等人気な店が入ってたんだけど、そこの
「怪談話ッスかwww」
「実話実話! もう仕事だからここいるけど、夜とかほんと逃げたいからね! お兄さんも早めに場所変えた方がいいよ。普通に治安も終わってるからね」
「うーーーす……」
ねぇねぇ。
「はい? ……、──────」
…………。
…………………………。
みつけた。
サイケデリック人魚のタスマニア鳥居収集(in ユニバーサルサバンナ・恋する夕暮れの味) 遊月奈喩多 @vAN1-SHing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます