VAR奇譚

ブロッコリー展

⚽️

【VAR = ビデオアシスタントレフリーの略称】




(※以下はサッカー界で再燃したVAR判定の導入の是非を問う流れのなかで起こった、世界サッカー史上に類をみない奇異な展開を経た試合をまとめたものだ。


一説によると、サッカーを愛するハッカー集団がディープフェイクを得意とする生成AIスパムを使ってVARシステムに攻撃をかけたとされているが、真相はわかっていない……。)




⚽️ ⚽️ ⚽️ ⚽️




実況「サッカーファンのみなさんこんにちは。快晴の空の下、シン・国立競技場は満員です。本日はここから東京リバティvs横浜モノリスの伝統の一戦の模様をお伝えしてまいります。放送席の解説はお馴染み、安木さんです。よろしくお願いします」


安木「よろしくお願いします」


実況「さっそくですが安木さん、本日の見どころを教えて頂けますでしょうか」


安木「そうですねー、見どころだらけなんですけど、あえて言うなら私の解説じゃないですかねー」


(小笑いあり)


安木「と、いうのは冗談で、両チームは今シーズンここまでまだ点を取られてないので、そこらへんの強固な守備からのカウンターといったところの切れ味のところを見ていきたいですねー、あとは怪我明けの選手が何人かいるので、そこら辺の回復具合とかですかね」


実況「なるほど、それでは、その辺りを注目して見ていくことにしましょう。間もなくキックオフです」


⚽️【キックオフ!】


実況「さあ、主審のホイッスルが鳴り、試合が始まりました。まずは前線に大きく蹴り出します。と、おっと!?ここでいったん主審が試合を止めます。なんでしょうか……」


安木「なんでしょうねー、ちょっと私にもわかりませんが」


実況「主審が耳に手を当てるシグナルということは、VARチェックが入っているようです」


安木「そのようですねー、どの場面を見てるんでしょうか、キックオフしただけですけどねー」


実況「あっ、画面には今出ました。“主審が別の人の可能性”と出ています。ちょっとスタジアム内ざわついています」


安木「そういうのは試合前に確認して欲しいですよねー」


実況「今確認が終わって、そのまま東京リバティボールで再開せよと主審がジェスチャーをしています。どうやら主審は本人だったようです。んー、ちょっとのっけから落ち着かない展開となっております」


⚽️【前半15分】


実況「さあ、ここで横浜モノリスの選手が倒されまして、いい位置からのフリーキックです。だいたい25メートルくらいの位置でしょうか」


安木「得意の角度なんでね、楽しみですね」


⚽️【シュート】


実況「あーっと、横浜モノリスの絶好の位置からのフリーキックは大きくクロスバーの上に外れていきました!」


安木「ちょっと壁を意識しすぎましたかねー」


実況「おやおや、ここでゴールキーパーが不満げに『なんでなんだ』と手を広げていますが……いったいどうしたんでしょうか。試合も止まっているようですが……」


安木「特に接触とかもなかったんですけどねー」


実況「おーと、VARです! “ゴールラインを割っている可能性”をチェックしているようですね」


安木「枠に飛んでないんですけど、なんでですかね」


実況「真上から見ると割ってるように見えるということを主審が選手たちに言っているようにも見えますが……」


安木「これがゴールだったらサッカーじゃないですねー」


実況「今チェックが終わりまして、判定はゴールキックです」


安木「でしょうね。なんのために見てるんですかね。ちょっと今日おかしいなー」



⚽️【前半30分】


実況「さあ、ペナルティエリア内に持ち込んで、細かくパスを繋いだところで、あーっと、倒されてPKです。東京リバティのDFの足がかかってしまいました。横浜モノリスPK獲得です!」


安木「FWの選手が自分で倒れたようにも見えますけどねー」


実況「東京リバティ側は、接触してないんじゃないかということでVARチェックを要求していますが、主審には受け入れらないようです」


安木「キーパーはもう集中してますね」


実況「さあ、PKスポットにボールをセットして短めの助走から、あー、見事!右隅に突き刺しましたー!」


安木「思い切って決めましたね」


実況「おやおや、ゴールセレブレーションしていた選手たちの顔色が変わりまして、えー、VARですか」


安木「蹴り直しとかですかねー」


実況「出ました!画面には“キーパーが止めた可能性”ということでチェック中のようです」


安木「なんでやねん。逆つかれてるし」


実況「いま場内にもVARの映像が出ているんですが、確かにセーブしていますね、なぜでしょう」


安木「なんでやねん、ゴールネット完全に揺れてましたけどねー」



実況「別の角度からの映像も、止めてます。んー。ちょっとゴールキーパー本人も止めてないのにな、という苦笑いを浮かべていますが、映像は止めています」


安木「……」


実況「今チェックが終わりました。ノーゴールです。ちょっと観客席からものが投げ込まれている状況で危険です。どうやら試合はコーナーキックからの再開のようです」


(安木さん舌打ち) 


⚽️【前半アディッショナルタイム】


実況「いま、前半の45分をまわりました。VAR等でかなり止まっていた時間がありましたので、アディッショナルタイムは10分です」


安木「止まりすぎですけどね」


⚽️【アディッショナタイム2分経過時点】



実況「おっとここでまたまた試合を止めます主審。ということは……VARですねやはり」


安木「普通に前半終わりにしましょうや」


実況「どうやら“前半が終わっている可能性”ということでチェックが入っているようです」


安木「映像要らなくないですか? それ。意味不です」(舌打ち)


実況「まだ手元の時計では2分しか経っていないのでまだかなり時間は残っているはずですが……、いま、主審が走って、VARのカメラの方へ腕時計を見せにいきましたね。戻ってきました。ホイッスルが鳴って前半終了です」


安木「……」



⚽️【後半戦のダイジェスト】


VARの介入3回☟


⚫︎“ゴールマウスがもらいに行った可能性”→ゴール取り消し


⚫︎“スタジアムの外のサラリーマンがプレーに関与した可能性”→オフサイド→ゴール取り消し


⚫︎“ボールがおにぎりだった可能性”→温める機会の阻止→レッドカード



0対0のまま試合は進む……



⚽️【試合終了】



実況「さあ、まだ時間は残っているか、両チーム最後の力を振り絞りますが……、ここで無情のホイッスル!伝統の一戦はスコアレスドローに終わりました」


安木「色んな意味で怪我人が出なくて本当に良かったです」


実況「まだ疲労からピッチに倒れ込んだままの選手もいますが、あれれ、おや? ここでVARです!」


安木「まだやるんですか」


実況「“どちらかが勝っている可能性”ということでチェック中です」


安木「完全なる意味不」


実況「ベンチからも両陣営が飛び出してきてかなり荒れ模様になっていますがチェックは長引いています。どうやらオンフィールドレビューになるようです」


安木「なにを見るんですかね」


実況「主審がじっくりとモニターで何度も今日の試合を再生しています。我々の目には引き分けに見えるんですが……」


安木「引き分けですよね」


実況「さあ、主審がチェックを終えて戻ってきました。判定は……、マイクを使って今説明がありました。VAR判定の結果、“試合が行われていなかった”ということになったようです」


安木「全員ズッコケてますけど」


実況「というわけで安木さん、今日の試合いかがでしたでしょうか」


安木「そうですねー、解説者としては試合が見たかったです」



実況「本日の解説は安木さんでした。どうもありがとうございました」


安木「ありがとうございました」







           終

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