SATAN見習い

真紗美

第1話

 祖母が私を【おっちょこちょいちゃん】と愛情込めてそう呼んでいた。

【友達想いで優しくて正義感もあるけれど、そそっかしい子】私を総評するとそうなるらしい。だからってこんな間違いをするとは夢にも思ってなかった。


 私は死んでしまった。まだ25歳の若さで仕事の帰り道、可愛いネコが高い塀の上から落ちそうになっていたので駆け寄ると転んでしまい、頭を近くにあったブロックにぶつけて即死した。猫は無事だった。よかった……じゃなくて、とっても情けない死に方だった。

 悲しんでも仕方ない、そのまま光に導かれ川を渡ると道が左右に分かれていて、その中心に看板が立っていた【SANTAになりませんか?なりたい人は左の道へ】と書いてある。サンタさん?あの世と繋がっているんだね、季節だもんね。夢はあるけどハードな仕事だからみんな右の道へ行く。左の道は誰もいない。サンタさんっていいんじゃない?やりがいがありそうだ。子供に夢を与えたい。トナカイに乗って働きたい。

 私もサンタになります頑張ります!意気込んで左の道へ行くと


 SANTA《サンタ》じゃなっくてSATAN《サタン》だった。


 またやってしまった。看板を読み間違えたんだろう。私のバカ!

そこには悪魔がいっぱいうじゃうじゃいた。みんな黒い服着て頭に二つの角を生やして歩いてる。帰ろうとしたけど見つけられて「人手が無くて助かるわー」と感謝されてしまった。どうやら人を苦しめたり拷問したりする悪魔は人手不足らしい。でしょうね。間違っちゃったけど喜ばれているから頑張ろう。

 そして私は悪魔見習いから始めたけれど、これがまた申し訳ないくらい失敗ばっかりだった。

 人間を痛める道具を忘れる。名簿を間違える。場所と時間を間違える。「よく生きている時に就職できたね」と仲間に言われる次第だ。今もそうだけど、同僚や上司に恵まれて一生懸命頑張ってきたから生活できていたんだろう。

 ある日とうとう拷問する人間に同情して泣いてしまい、私につられて上司も泣いてしまい仕事にならず、悪魔界で一番偉い大王様に呼び出された。落ち込む私に大王様は気の毒そうな顔して 「頑張ってるのはわかるけど、君には辞めてもらう」と宣言されてしまった。私は何度も「もっと頑張りますから」と泣いて頭を下げるけど、困った顔で大王様は悩みながらこう言った。

「ひとつ試験をしよう。それにパスしたら雇ってあげよう」と言ってくれた。

さすが悪魔の大王様だ。私が「頑張ります」と返事をしたとたん、急に意識が遠くなり、気が付くと目の前に猫がいて、死んだ場所に戻り生き返ってしまった。そして遠くから声が聞こえた。

『現世でその、そそっかしい性格を直しなさい。それから考えてやろう』と。


 大王様ありがとう。頑張って落ち着いた生活をします。そして試験にパスして立派なSATAN《悪魔》になりますと、私は心に誓った。



「上手く追い出しましたね」やれやれと悪魔が大王に話しかける。

「うーん、やる気はあるが困ったものだ。あの子がまたこっちに来ても絶対受け付けるな。天国に追いやってくれ」

大王様はうんざりとそう言って、彼女の山のような不始末の書類を灰にして消してしまった。


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SATAN見習い 真紗美 @miodama

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