カフェ店員 亜耶③

「何の話、してたんだっけ‥」


「ははっ。亜耶さん、相当疲れてるんですね。ほら、何か渡したいものがあるって」


「あ、そうだった。ごめんね。それじゃあ章太郎くん‥お風呂入ろっか」


「はい‥え?」


「あ、あれ?私、何言ってるんだろ」


亜耶さんは困ったように首を傾げる。


「そ、そうですよ。そのやりとりはさっきやりましたよ」


「だ、だよね。‥あれ。でも、お風呂、入らないと。だって、風邪引いたら、駄目だし」


ぶつぶつと、亜耶さんは独り言を繰り返し、いや、そう自分に言い聞かせているように見えた。


「うん。やっぱりお風呂入らないと」


「え、大丈夫ですよ、本当に」


「いいからいいから」


亜耶さんは笑顔のまま俺の背中を押す。

ちょ、ちょっと待て。どうなってるんだ。


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冷静になろう。


なんで今俺は、お風呂に浸かっているのか。

お風呂は好きだ。疲れが取れる。

うん、そうじゃない。

そこじゃなくて。他人の、それも憧れの人が普段使っているお風呂に入っているこの状況がまずおかしい。


『湯加減は大丈夫ー?』


「あ、はい!いい感じです」


湯船は一人では広く、二人で丁度いいくらいの大きさだった。


ここで、亜耶さんは旦那さんといつも一緒に入っているのだろう。


旦那さんは一度会ったことがある。この店の店長だが、基本店にはおらず裏方に回っていると亜耶さんが言っていたっけ。


感じのいい人だったな。

お似合いの二人だった。


「って、よく考えるとまずいじゃん!もし旦那さんが帰ってきたら‥」


俺は湯船を勢いよく上がる。

早く帰ろう。こんな所、見られたら大変だ。


風呂の引き戸を開ける。


「‥」


目に飛び込んできた光景を、俺は生涯忘れることはないだろう。


清楚で、明るく、町内一の美人で有名な人。俺にとっては憧れの人。


その人の、キャミソール姿を見たい人はきっと大勢いて、さらには彼女と一緒に暮らしている旦那さんを羨む人も数知れないほどいると思う。


「あ、もう上がるの?」


そんな存在の亜耶さんが、今まさしくキャミソール姿で俺の前に立っていた。

しかも、ズボンは脱いでおり、露わになっている純白の、


「白‥」


これは、夢か。


あー、そうか。

あの幽霊も含めて、夢を見ているんだ。


醒めないでほしいくらいの、いい夢だ。


「身体洗った?遠慮しないでね。私、洗ってあげようか?」


「ぇ」


「ほら、迷惑かけたし。うん、迷惑、かけた?から」


迷惑‥と自分の言葉を不思議そうに繰り返す。


その思案顔で俺の右腕を取り、また風呂場に連れて行かれる。


「ねぇ‥なんか、おかしいかな」


ぎこちない笑みで亜耶さんが聞いてくる。


「おかしいというか‥まぁ」


俺は目線を逸らす。

おかしい、事はない。だって、夢だから。


「そう、だよね。なにかおかしいと思っちゃうんだけど」


そう言いながらも、亜耶さんはボディソープを手につけている。


「何か、変‥じゃないか」


パッと悩みが消えたように笑顔になり、俺の身体に泡をつけはじめる。


柔らかい手の感触。


これは‥夢、じゃない!


「ちょっ、ちょっと亜耶さん!」


「ん?痛い?」


少し屈み上目遣いで見てくる。

た、谷間が。


滑らかに滑る手。隅々まで、泡が行き渡る。


あ、あぁ。駄目だ、これ以上は。


「ふーんふーん」


鼻歌混じりで楽しそうに素手で俺の身体を洗っていた亜耶さんの手が、下半身で止まった。


「ふーん‥あれ、これって」


俺は、悪くない。


そそりたつ俺の下半身の、。それに亜耶さんの柔らかな手が触れた瞬間、「き、きゃああ!!!」と悲鳴が風呂場に響いた。


「ちょ、ちょっと章太郎くん、こ、これ、どういうこと」


後ろにのけぞり、壁まで距離を取られる。

いや、俺の方こそ何なのかを聞きたい。


怯えている亜耶さんを見ると、気持ちが焦ってきて「ち、違うんです」と自分でも何を言い訳しようとしているのか分からず、とにかく、ただ弁明をしようとしていた。


「違うって‥え、嘘、ちょっ、と」


何かに引っ張られるように亜耶さんはまた俺の方に近づいてきて、そして、そのまま右手で俺の下半身のモノを掴んだ。


「い、いやっ、なんで」


顔を背けるも右手は動く。


しゅ、しゅっと、泡で滑りが良くなった手は段々と勢いを増す。


「あ、やさん、駄目です」


「ち、違うの、勝手に、手が動くの」


そう言って今度は先端部分を入念に、回すように動かし始めた。


その、凛とは違うテクニックに俺は漏れる声を我慢できない。


「ぁ、あ、だ、めです、もう」


「え、え、え、ちょ、ちょっとまって、本当に、ちがうの」


焦る亜耶さんの言葉を最後に、俺のモノは臨界点を突破し、勢いよく、飛び出した。


亜耶さんの手と、キャミソールと下着にかかる。


「あ、ぁあ」


ドロっと垂れる液体と亜耶さんの信じられないと言った表情を見て、俺は罪悪感で押し潰される。


「ご、ごめんなさいっ!」


俺は逃げるように風呂場を出た

濡れたままで服を着て店を出る。


雨はまだ止む気配が無かった。



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【R18】憑依される者達 Q太郎 @shokichi-hukukado

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