第一王子様は婚約者を捨ててまで幼馴染の事を愛したかったようです
大舟
第1話
「エリッサ、君との婚約関係はもうやめたいと思っている」
「……」
突然にガラル第一王子の口から告げられた言葉は、婚約破棄だった。
彼はそれを冗談で言っているのではなく、本気で言っている。
「僕もいろいろと考えたんだ。このまま君との関係を続けていくことが本当にベストなのかどうかとね。しかしそれは、ベストではないという結論に至ったんだ」
「…それは、どういうことですか?」
ガラル様の言っている言葉の意味が当然分からない私は、その事についての説明をガラル様に求めた。
するとガラル様は、待っていましたと言わんばかりの雰囲気でこう言葉をつぶやき始めた。
「よく聞いてくれたよエリッサ。実は僕は、真に自分にふさわしい相手というものに気づいてしまったんだ。君よりも僕の心を温かくしてくれて、君よりも僕の思いを熱くさせてくれる。そんな理想的ともいえる女性の存在に…!」
「……」
うっすらではあるけれど、そうなのではないかと思っていた私に驚きの感情はあまりない。
その相手の人物についても、私には少しだけ心当たりがある。
「…その人物は、レベッカですか?」
「おぉ!やっぱりわかるか!それだけ僕と彼女の雰囲気が良いものであるという証拠だな♪」
その名前を聞いた途端、分かりやすくうれしそうな表情を浮かべて見せるガラル様。
「レベッカと僕は幼馴染だからな。当然僕らを包む雰囲気というものは他にはないものがある。エリッサが嫉妬してしまうのも仕方のない話だ」
レベッカはガラル様の幼馴染であり、かつ隣国であるドレッド王国の王族令嬢だ。
2人はともに国の頂点に立つ一族同士としてのつながりを昔から持っていて、共通する話題なども多いらしい。
「幼い頃に会って以来、この間久々に再会を果たしたのだが、その時のレベッカの姿ときたらもう可愛らしくてたまらなかったよ。まさかあんな子供っぽかった女の子があそこまで女性としての魅力を爆発させてくるとは、僕は思ってもいなかった。会って少し話をしただけで、僕の心は完全に彼女に奪われた。それだけじゃない、彼女はただの貴族令嬢である君と違って王族令嬢だからな。僕の隣に立つには真にふさわしい女性であることに違いはない」
「……」
もう完全にレベッカの事を受け入れるつもりでいるガラル様。
そこに一切の罪悪感やうしろめたさは感じられず、ただただ自分の欲望のままに突き進んでいる様子が見て取れた。
「それでは、私はもう用済みという事ですね。だから婚約破棄をされるという事ですね」
「まぁ手短に言えばそう言う事になるが…。だが、婚約破棄の名目は君が僕を裏切って浮気をしたからという理由にさせてもらう」
「…はい?」
…この人は今なんて言った?
婚約破棄の責任を、ありもしない私におしつけようとしている…?
「僕の方に婚約破棄の理由があったら、これから迎え入れるレベッカにいらぬ不安を与えてしまう可能性がある。だが君が勝手に僕を裏切って浮気をしたという理由なら、荒波は立たないどころかむしろレベッカは僕の事を同情してくれるだろう。そうした方が後々都合がいいからな」
「…私浮気などしていないのですけれど?むしろ婚約者である私を裏切って浮気をしたのはそちらの方なのではありませんか?」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。僕はただただ幼い頃に関係を築いた隣国の幼馴染に再会を果たしただけであり、なにも指をさされるような事はしていない」
「それが真実だったとしても、私は決して浮気などはしていませんが…」
「バレていないだけで、裏ではやっているんだろう?君だって所詮は女なのだから、底知れぬ欲望のままに男をあさっていたんじゃないのか?どうせ婚約関係を破棄することはもう決まっているんだから、今更隠したって何の意味もないぞ?」
「……」
私はどうやらこの人のことを誤解していたのかもしれない。
第一王子様として周りの上に立つくらいの人だから、きっと人間性も伴っているものだとばかり思っていた。
けれど、実際にはそれはただの勘違いだったという事がよくわかった。
「はぁ…。もうご自由になさってください。婚約破棄の理由も別にそれでいいです。ここで私がどれだけ否定し続けても、最後にはそう発表されるのでしょうし…」
「なかなか話が早くて助かるよ。エリッサ、君ならわかってくれると信じていた」
私が何を分かると信じていたのだろう?
はっきり言って何一つあなたの思いは分かっていないのだけれど。
「これからの僕とレベッカの関係をぜひとも見守っていってもらいたい。あぁそうだ、レベッカとの婚約式典には君も招待してあげてもいいぞ?君だって少しくらい自分に僕らの幸せを分けてほしいだろう?」
「……」
もう好きにしてくださいと私は言ったのだから、後の事はもうどうでもいい。
ガラル様がやりたけれければどうぞご勝手に。
今の私が思う言葉は、それ以外何もなかった。
「(…そういえばレベッカには、いろいろと黒い噂を聞くけれど…。まぁもうどうでもいいか。私はもうこの人とは無関係なのだから)」
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第一王子様は婚約者を捨ててまで幼馴染の事を愛したかったようです 大舟 @Daisen0926
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