ぶっ壊れスキル「想像で創造」で、温泉街を作りモフモフたちとスローライフを満喫していたら、いつのまにか最凶種を従える魔王になっていました。
菊池 快晴@書籍化進行中
第1話 誰もいない所で温泉街を作るぜ!(魔王への第一歩)
「
気づけば目の前に白髪の老人が立っていた。映画や漫画で見るような仙人が具現化したような風貌だ。
ふと記憶を思い返す。
そうか。俺は死んだのか。
「だがお主はとても素晴らしい人間じゃった。わしは神様ではないが、しかと見ておったぞ」
仙人には悪いが、その言葉は皮肉としか思えなかった。
俺は家族がいなかった。物心ついた頃には孤児院にいたからだ。
里親にも恵まれなかった。一人暮らしができる年齢になってからは、ただひたすらに働いた。
感謝されるのが好きだった。自身を求められることが嬉しかったからだ。
しかし雇ってもらった会社はことごとく潰れ、最後に採用されたところはとんでもないブラック企業だった。
残業代なんて支払われることもなく、毎晩遅くまで働いて、安アパートに帰宅するだけの繰り返し。
厄介なのは、それでも人の役に立っていると実感するときがあったことだ。
気づけばアラサー。そんなある日、トラックにはねられそうな子供が、目の前にいた。
「それでのう、お主のこれからじゃが――」
「子供はどうなりましたか? 生きていますか?」
「……無事じゃよ。お主のおかげで怪我一つないぞ」
「……良かった」
最後の最後で未来ある子供を助けられたのだ。
ならば俺が生きていた意味もあるか。
しかしここは天国なのだろうか。
さすがに地獄へ行くほどの人間ではなかったと思うが。
「ふむ。自分の事よりもまずは他人のことか」
「ただの寂しがりですよ。それでここはどこなんですか?」
「勘違いしているみたいじゃが、ここはまだあの世ではない。霊界と現世の魂を繋ぐ場所なのだよ。お主には選択肢がある。元の世界で赤ん坊からやり直すか、それとも新しい命として別の世界で生きるか」
「別の世界? どういう意味ですか?」
「異世界、という単語を聞いた事はあるかのう。わしはお主が気に入った。元の世界では魔力がないのでできないが、異世界では望むものや好きな場所、できるだけ配慮しよう」
まるで漫画やアニメの世界だ。とはいえ、ドッキリとは思えない。
望むもの……か。
「……もし、最強になりたいとか言い出しらどうするんです?」
「もちろん、それも叶えるぞ」
まさかの即答で少し笑ってしまった。アラサーとはいえ男だ。最強に憧れたこともある。
ただそれはもっとずっと昔の話。
今はそんなものを欲していない。むしろ逆、ただ平穏にのんびり過ごしたい。
忙しくても無趣味というわけではなかった。
特に好きだったものがある。それは温泉だ。
ごくまれの休みの日に温泉へ行っていた。
湯につかって、美味しいご飯を食べて、気持ちのいい布団で寝る。
こんな贅沢はない。
俺が望めば、そんな毎日が可能かもしれない、ということだろうか。
そのことを伝えると、仙人が笑った。
「なかなか愉快な願いじゃのう。あいわかった。ならばそれに適した能力を授けよう。何が良い?」
驚くほどあっさりだ。だが適した能力か……。
旅館をもらう? いや、それだと従業員もいるだろう。
温泉街に飛ばしてもらう? うーん、異世界にあるとは思えない。
そもそも温泉の良さ食事もある。湯上り御膳なんて、最高だしな。
……そうか。
「温泉を1から作ってみたいです。そんな事が自由にできるような、そんな能力はありますでしょうか?」
「ふむ。――あいわかった。能力を与えた」
そんなあさっさり――と思ったら、体がポカポカし始めた。
これが、授かったということか?
……どうせなら、いっぱい言っておくか。
温泉とは地熱で温められたものだ。熱がたりなければ足す必要がある。
それも伝えてみた。
「あいわかった。授けよう」
湯上りは扇風機がもほしいな。できれば、強いやつ。
「あいわかった。授けよう」
冷たい水は必須だ。サウナも作ってみたい。
「あいわかった。授けよう」
暗い洞窟湯も作ってみたいが、脱衣所は明るくしたいな。
それから異世界言語の自動習得もしてもらった。
「ええと最後に……いいですか?」
「よいぞ」
「異世界ってのは、魔王とかいますか? できれば、その魔王なんてものがいない世界が望ましいです」
異世界において魔王は最悪だ。人々を苦しめるし、異世界に転移した結果、勇者がきたぞ、なんて呼ばれたら困るしな。
「わかった。ならば魔王が既に討伐された世界軸に送ろう」
「ありがとうございます。それと年齢はそこまでいじらなくていいです。赤ん坊からスタートするより、今のままが嬉しいので。欲を言えば、少し長く生きたいですが」
「すべて叶えよう。では魔王のいない世界。温泉がある場所にしよう。住居も軽く用意しておく。必要そうなものもな。生き物もいるが、能力があれば大丈夫だろう――イズミよ、よき来世を送るのだ」
そして俺は真っ白な世界に包まれていった。
◇
「……ふむ、もしかしていささかやりすぎたのう? 最強を超えたかもしらぬ……。まあ良いか。あのような素晴らしい人間には、幸せに過ごてほしいものだの。――魔王が討伐された跡地ならば人もあまり来ぬ。望み通り、のんびりできるじゃろう」
能力:
異世界言語能力 完全設計 不老。
火、水、地、水、闇、光、完全習得。
――――――――――――――――
年末だよ! カクヨム10だよ! 新作投稿だよ!
温泉スローライフです。
書き溜めまで毎日更新します。
ほかの新作もよろしくお願いします。
タイトルは【たった一人で前線を止めていた俺に「役立たずが」だって? もういい。俺は好き勝手に生きて可愛い嫁を探す旅に出させてもらう。え、なに、俺って他国から狂乱のバーサーカーって呼ばれてたの?】です。
https://kakuyomu.jp/works/16818093090526914133
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