第2話 小さな楽しみ

この家に来て数日、はじめは変な夢だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


今でも夢なら覚めてくれと思うが、一向に冷める気配はない。


どうやら、俺はクッションになったみたいだ。


そして今、俺は少女に抱かえられて家の中を移動中である。


目が覚めた時はこの家の主人である男性の部屋に居た俺だが、この少女、メアリーのお気に入りになって少女の物になった。


今はメアリーの寝室からリビングに移動させられている最中だ。

一緒に抱かえられている猫のぬいぐるみに「なあ」と呼びかけるが、当然返事があるわけはない。


この猫もメアリーのお気に入りで、大体部屋を移動する時は一緒になる。


とはいえ俺と猫では役割がちがう。俺はメアリーに下敷きにされ、猫はメアリーに話しかけられ、遊び相手になる。


「メアリー様、そろそろお昼寝をしましょう?」


「えー、まだ眠たくない!」


女性に話しかけられて、メアリーは頬を膨らませてそっぽを向いた。


女性はメアリーの母親。ではなく家の使用人だ。


この家は裕福な家らしく、家族以外に数人の使用人がいる。


サラッと使用人と言ったが、どうやらここは俺が居た現代ではない。メアリーと共に移動するようになって内装や人、窓の外を見て分かった事だが、世界観が違う。


予想だが、俗にいう異世界というやつだろう。


だからメアリーはいつも誕生会のようなドレスを着ているのだ。


メアリーは嫌がっているが、昼寝は数少ない俺の楽しみの一つだ。


食事や移動、体の身動きさえも制限された俺のこの世界での楽しみ。


それは睡眠! ではない! ならなぜ昼寝が楽しみなのかって?


それはクッションになってから唯一機能している五感、視覚を利用した楽しみだ。


メアリーはまだ幼く、1人で寝ることはできない。なので昼寝の時はこうして使用人が寝かしつけにくる。


寝かしつける時は使用人のメイド服がシワにならないように、パジャマに着替えるのだ。勿論メアリーも着替えるが、お子ちゃまに興味はない。


この世界のパジャマは日本のようにスエットやボタン付きの薄手の服ではなく、ネグリジェである。

勿論、シースルーやレースのセクシーなものではなく、スモックのようなものだが、服よりも体のラインが見えるし、横たわると胸の谷間がしっかりと見える。


ガン見しても咎められることはない。故に眼福である。


ちなみに使用人は2人が女性で、2人とも胸が大きい。


(あ、ちょっとまって! メアリーもうちょっと、もうちょっと横にずれて!)


今日のメアリーの枕ポジションは俺の視界を丁度良く塞いでおり、使用人のセクシーな部分が見えない。


(ああ、もう寝息を立て始めてやがる! メアリー、寝返りだ! ゴロンしろ!)


メアリーを寝かしつければ使用人は仕事に戻るため、眼福タイムは限られている。


この日の昼寝の時間は、俺の願いは届かず、寝返りしないメアリーによって俺の楽しみは奪われてしまったのであった。


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綿転生〜目が覚めたらクッションになっていた件〜 シュガースプーン。 @shugashuga

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