綿転生〜目が覚めたらクッションになっていた件〜
シュガースプーン。
第1話 金縛り
俺の名前は
何言ってるのか分かんないだろ?
これを説明するには初めから話す必要がある。あれは俺が深酒をして、ソファで眠った次の日の事だった——
(ん、あれ、ああ、昨日そのまま寝ちゃったのか。あれだけ呑んだのに二日酔いにならないなんて、俺もまだまだイケるな)
そう考えながら俺は体を起こそうとするが、全く体が動かない。
(なんだ? 金縛りか? てか、ここはどこだ?)
ハッキリとしてくる視界で目だけを動かして周りを見ると、自分が思っていた光景と違う。
ベッドの寝心地では無かったのでソファで寝てしまったのだと思っていたが、視界に入る家具は自分の知らない物で、他人の家のようであった。
(え? これって不味いんじゃね? 住居不法侵入ってやつ? 家主が起きてくる前に出ていかねえと! クソ! 動け! 動けよ俺の体!)
金縛りの体を動かそうと必死に身を捩るが、ギュッと締めつけられる感じがして何ともならない。
俺がそうしている間に、部屋のドアが開いて男性が入ってきた。
(ち、違うんだ! 俺は泥棒じゃない! そりゃ、間違って家に入ったのは不法侵入かもしれないけど、家の鍵を開けっぱなしにしてたあんたにも落ち度はあるだろ? だから、見逃してくれ! すぐに出ていくから! 警察は勘弁してくれ!)
必死に弁明する俺を無視するように、男性は一直線に小走りで俺の方へ向かって来る。
ああ、やっぱりダメだよな。
俺が諦めかけたその時、男性は俺に向かって、飛んだ。
(まさかの実力行使! フライングエルボーですか⁉︎)
飛び上がった男性は、俺めがけて体重を乗せた肘を振り下ろすようにしてソファへダイブした。
(グエェ! って、痛くない?)
「うむ。流石はあの商人がお勧めするだけはある。このふかふか感は一級品だな」
男性はそんな事を言いながら俺を下敷きにして、優しくあれを撫でた。
(や、やめろ! 気持ち悪い!)
シュルシュルと衣擦れの音が聞こえて来るものの、撫でられる感触はない。
しかし、視界に入る男性は満足そうに俺を撫でており、鳥肌が立つ思いだ。
その後、何度も文句を言うが聞く耳を持ってもらえず、下敷きにされたまま時間は過ぎていった。
男性は呑気なもので、警察を待つ間は俺を下敷きにしたままに鼻歌を歌いながら何かの書類に目を通している。
気を抜いていそうなので、身動きさえ取れれば逃げだす事もできそうだが、相変わらずずっと金縛りが続いている。
ドアをノックする音が聞こえて、男性が返事をした。
その様子を見て、俺はついに警察が来た事を悟った。
こんな事になるなら、ベロベロになるまで酔わなければよかった。
次からは物事がちゃんとわかるうちに帰宅しよう。などと考えるが、住居不法侵入がどれくらいの罪で、罰金で済むのか、懲役になるのかさえも分からない。
俺が絶望する中、ドアを開けて入ってきたのは警察ではなく、まるで誕生会の主役のようなドレスを着た小さな女の子であった。
「パパー!」
入り口から小走りに駆け寄ってきた女の子は、勢いのまま男性に抱きつく。
「こらこら、今パパはお仕事中だからね。そうだ! メアリー、ここに座ってごらん。パパが手に入れた最高級のクッションだよ!」
男性が女の子を両手でひょいと抱き上げると、俺の上に女の子を置いた。
(何やってんだよ! あんた!)
俺は驚きの声を上げるが、女の子は気にする様子もなくギュッと俺を抱きしめた。
「ふかふか〜!」
俺は小さな女の子に抱きしめられ、頬を擦り付けられる事に罪悪感を感じて男性をキッと睨むが男性は気にした様子はない。
そこで、俺は男性の言葉の小さな違和感に気づいた。
(あれ? この人さっき俺の事をクッションって呼んだよな?)
俺は起きてからこれまでの状況を整理して、一つの結論へと辿り着く事になる。
そんなはずはない。そんなはずはないのだが……
(俺、クッションになってるーーー!!)
俺の驚いた精一杯の叫びは誰の耳にも届かないようで、女の子は笑顔でふかふかと俺の体を押し、その隣で男性は書類に目を通しているのであった。
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