第2話

太平洋上の潜水艦内部では、重い機械音と緊迫した空気が渦巻いていた。出木杉博士の指示のもと、伸太、銅鑼右衛門、静香、武が各々のポジションに就いていた。だが、その平穏は一瞬にして崩れ去った。


「緊急警報!外部から未知の生命反応を感知しました!」銅鑼右衛門が内蔵されたセンサーで異常を察知し、鋭い声を上げた。ホログラムモニターに映し出されたのは、一人の女性の姿だった。波打つ金髪と深い碧眼を持つ美しい女性——クリスチーネ剛田だ。


「クリスチーネ……!」武の目が見開かれる。「なぜお前がここにいるんだ!」


「お兄様……」クリスチーネの声は柔らかく甘い響きだった。しかし、その表情にはどこか不気味な歪みが見える。彼女の背後には、科学者の安雄が立っていた。彼の顔は不気味な笑みを浮かべ、手を彼女の肩に置いている。


「よう、剛田武。お前の大切な妹を借りているよ。」安雄が挑発するように語りかける。「彼女は今、私の“意思”そのものだ。」


「貴様ァァァァァ!!!」武が叫び、潜水艦の床を蹴って突進する。その力強い一撃は安雄を狙っていたが、間に立ったクリスチーネがその一撃を受け止めた。驚愕する武。


「やめて、お兄様……」クリスチーネの瞳は虚ろだ。「私を傷つけないで……」


「くっ……!」武の拳が止まる。妹を目の前にして彼の体は動かない。


「情けないな、剛田武。」安雄は笑い声を上げた。「だが、今から“真の融合”を見せてやる!」


その瞬間、安雄の体が液状化し、クリスチーネの背中に流れ込む。彼女の身体は不自然に震え、目から赤い光があふれ出した。「あああああああ!!!」クリスチーネの叫び声が響き渡り、やがてその身体が二つに裂け、もう一人のクリスチーネが生まれ落ちた。


「ふふ、さあ、どちらが“本物”か分かるかしら?」二人のクリスチーネが同時に喋り出す。両者ともに同じ笑みを浮かべ、同じように武を見つめていた。


「ふざけるな……!」伸太が銃を構える。「どっちが安雄なんだ!?どっちがクリスチーネなんだ!?」


「どっちも正解、どっちも不正解だ。」二人のクリスチーネが同時に笑う。「どっちが本物か、お前たちに見極められるかしら?」


「見極める必要はねぇ!」武が伸太の肩に手を置き、叫ぶ。「おい、伸太!俺たちも“融合”するぞ!」


「……わかった!」伸太は決意のこもった目で武を見返す。「行くぞ、武!」


二人は手を取り合い、銅鑼右衛門が手渡した特殊装置を使って融合を開始した。光が閃光を放ち、二人の体が一つになっていく。肉体が溶け合い、新たな存在が誕生する——その名も**“伸武(ノビタケシ)”**。


「これが……俺たちの力だ!」伸武が大地を踏みしめ、拳を構えた。彼の目はかつての伸太の優しさと、武の力強さを併せ持つ光を宿していた。


「だが、それは見込みが甘いな。」一人のクリスチーネが不敵な笑みを浮かべた。「次は“こいつ”も使わせてもらうぞ。」


その瞬間、銅鑼右衛門の体が黒い液体に飲み込まれる。「ぐ、ぐあああああ!」銅鑼右衛門の目が赤く点滅し、身体が激しく痙攣する。そして、液体が全身を覆い、銅鑼右衛門の体がねじれるように変形していく。


「やめろ、安雄!!」静香が叫ぶが、安雄の声が響き渡る。「これで完成だ。三人目の“クリスチーネ”がな!」


新たに現れたのは、銅鑼右衛門の身体を持つ“クリスチーネ”だった。金色の髪と青い体、猫型の特徴が不気味な融合を遂げている。「ふふ、これで三人目のクリスチーネが揃ったわ。」


「もはや見境がつかない……」静香が苦々しくつぶやいた。


「ならば、全てを巻き込んで吹き飛ばすまでだ!」伸武が声を上げた。「広範囲攻撃——発動だ!」


伸武の手から放たれた光の奔流が周囲のすべてを巻き込み、潜水艦の金属壁が爆音と共に軋む。その光の先には三人のクリスチーネが立ちはだかる。


— しかし、彼が葬ったのは銅鑼右衛門だった。安雄が入っている「本物」はかすり傷一つ負っていなかった。


そして、静香が呪文を唱えはじめた。


「な、何が起こるんだ……?」


伸武が不安そうに静香に聞いた。その直後、遠くの方から何やら音が鳴り響いてきた。伸武が立っていられなくなり、転びそうになりながら叫んだ。


「地割れだ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エマージェンシーのび太・のび エグジット @rp_no_Yokensu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ