エマージェンシーのび太・のび
エグジット
第1話
太平洋上の海面が不穏な波紋を描いていた。その中央に、黒光りする鋼鉄の潜水艦が堂々と浮かんでいる。静寂を破るかのように、潜水艦の甲板に白い布がはためいた。
「待っていたぞ、みんな。」
鋼鉄の塊の上に立つのは、白衣をはためかせた一人の男、出木杉博士だった。穏やかだったかつての彼の面影は残しつつも、その瞳には強い決意が宿っている。伸太、銅鑼右衛門、静香、武が甲板に降り立つと、彼は手を差し伸べ、彼らを出迎えた。
「博士、一体何があったんだ?」伸太がロシアの銃士の帽子を軽く上げながら問う。
「安雄だ。あの男が“この世界を食らおう”としている。」出木杉博士の声は低く、しかしはっきりとした威圧感があった。
「この世界を……食らう?」静香が眉をひそめ、訝しげな表情を浮かべた。「どういうこと?」
「このままでは我々の世界そのものが崩壊する。安雄は次元を歪ませ、すべてを自らの支配下に置こうとしているのだ。」出木杉博士の声が重々しく響く。「そして君たちこそが、それを止める最後の希望だ。」
その言葉に武は静かに頷き、腕を組んだ。「やっと戦の時か。インドの皇帝として、この剛田武がその役目を受けて立つ。」
脛夫は派手なフランスの貴族衣装を優雅に整えながら、軽く肩をすくめた。「まったく、面倒な話だな。だが、富豪たるもの、世界が消えたら困るからな。」彼の言葉は皮肉交じりだったが、彼の瞳にもまた戦意が宿っていた。
「いいだろう。」銅鑼右衛門が言葉を発すると、その青い体が光を反射して一瞬輝いた。「戦いならば、道具を駆使するまでだ。道具の管理は任せてくれ。」
「話は後だ、さあ、中に入るぞ。」出木杉博士は手を振り、彼らを潜水艦内部へと誘った。
潜水艦の内部は、冷たく重厚な金属の壁に囲まれており、無数のパイプやケーブルが天井から垂れ下がっていた。薄暗い赤い非常灯が、揺れる影を彼らの足元に落とす。重い機械の駆動音が響き渡り、潜水艦内の静寂を断ち切っていた。
「こちらへ。」出木杉博士が先頭に立ち、彼らを作戦室へと導いた。作戦室は潜水艦の中核であり、中央には大型のホログラムモニターが設置されていた。博士が端末を操作すると、青白い光がモニターの上に地球の立体映像を浮かび上がらせた。
「これが、安雄が狙っている“座標”だ。」博士は指を動かし、モニターにいくつかの赤い点を浮かび上がらせた。「これらの地点は、次元の結節点だ。もし彼がこれらを押さえれば、次元の扉を開く鍵を手にすることになる。」
「じゃあ、そこを先に押さえればいいってわけか?」伸太はホログラムに目をやり、顎に手を当てて考え込んだ。
「その通りだが、彼の動きは速い。おそらく、すでにいくつかの座標は彼の手に落ちている可能性が高い。」出木杉博士は指を弾き、赤い点のいくつかが青に変わった。「これが今、彼が支配下に置いている地点だ。」
「ふん、手が早いな、あの科学者め。」武が拳を握りしめた。「だが、オレたちのほうが速く動く。」
「そのための戦力が君たちだ。」出木杉博士は彼らを見回し、再び操作端末に指を走らせた。「この潜水艦は移動要塞としての機能を持つ。次元を越えて各地の座標に君たちを送り込む。」
「移動要塞……!」脛夫が口を開いた。「なかなか豪勢じゃないか。」
「だが、油断はするな。彼はこの世界を食らうつもりだ。」出木杉博士は警告するように言い、視線を鋭くした。「彼を止めることができるのは、君たちだけだ。"エマージェンシーのび太・のび"、作戦を開始する。」
その言葉が響くと同時に、銅鑼右衛門の目が赤く光り、彼は静かに頷いた。「全システム、起動完了。すべての戦力、展開可能。」
伸太は帽子のツバを下げ、静かに目を閉じた。「よし、行こう。」
伸太、銅鑼右衛門、静香、武、脛夫——彼らの戦いが、今、始まる。
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