第八章 結婚準備

 美世と清霞の気持ちが揺るぎないものとなり、二人はついに結婚へ向けて準備を進めることになった。久堂家と斎森家の間でも正式な話し合いが行われ、両家の面々は重厚な面持ちで向き合った。


 斎森真一はこれまでにない穏やかな表情で、美世を見つめていた。「美世、これからは久堂家の一員として胸を張って生きなさい。そして、幸せになるんだぞ。」


「はい、お父様。」美世は頭を下げ、静かな決意を示した。


 一方、清霞は久堂家を代表し、真っ直ぐな声で宣言した。「美世さんは、私が必ず守ります。彼女の力も心も、誰にも傷つけさせはしない。」


 真一はその言葉に頷き、ついに両家の結婚が正式に承認された。美世は胸の中で、今までの困難が報われるような気持ちになった。


 準備は一気に進んでいった。結婚式の会場は久堂家の格式にふさわしい美しい庭園で行われることになり、清霞の部下である五道佳斗やゆり江も準備に大忙しだった。


「美世様、ドレスはこちらに合わせましょう!」

ゆり江が満面の笑みで美世に衣装を差し出し、鶴木新もふざけたように笑いながら言った。「久堂清霞が気絶しないように、派手すぎない方がいいかもな。」


 美世は頬を赤らめながら、静かに微笑んだ。「ありがとうございます。みんながいてくれるから、安心して準備ができます。」


 そんな中、香耶もまた、少し気まずそうにしながら美世の部屋を訪れた。「お姉ちゃん、綺麗になるんだろうね。」


 美世は驚いたが、すぐに笑顔を返した。「香耶ちゃん、見に来てくれるの?」

香耶はぷいっと顔を背けて、「当然でしょ。お姉ちゃんの晴れ姿なんだから。」と小さく呟いた。その言葉に美世は涙ぐみ、姉妹としての絆を改めて感じた。


 夜、清霞が美世を庭へと誘った。静かな星空の下で、彼は彼女の手を取り、静かに言った。


「美世、もう少しだな。」

「はい。まだ夢みたいですけど。」


 清霞は穏やかに微笑んで続けた。「お前がここまで来たのは、お前自身の力だ。これからは、二人で同じ道を歩もう。」


「はい、清霞くん。」美世の声は震えていたが、その目には強い決意が宿っていた。


 結婚という新たな未来に向けて、美世と清霞は静かに手を取り合い、これから共に歩む人生を胸に誓うのであった。


 結婚準備が着々と進む中、美世は斎森家と向き合う時間を作ることにした。結婚式を前に、これまでの関係を少しでも修復し、家族として新しい一歩を踏み出したかったのだ。


 ある日の午後、美世は斎森家を訪れ、真一、香乃子、そして香耶と向き合った。広間には静けさが漂い、これからの話がどのように進むのか、美世の胸は少しだけ高鳴っていた。


 真一が最初に口を開いた。「美世、よく来たな。これまでのお前を見てきて、今はお前が誇らしい。」

その言葉に美世は驚きつつも、素直に嬉しさを感じた。「お父様、ありがとうございます。」


 香乃子もどこかぎこちないが、以前とは違い穏やかな表情で言った。「私は今まで、あなたに冷たく当たってしまった。でも、これからは、少しずつでも、あなたと向き合いたいと思うの。」


 美世は香乃子の言葉を噛み締め、小さく微笑んだ。「お母様、私も一緒に頑張ります。」


 そして、香耶がため息混じりに口を開いた。「なんか、みんな真面目すぎるのよね。でも、お姉ちゃん、幸せになりなさいよ。」

美世は香耶の言葉に驚きながらも、彼女の心からの気持ちが伝わってきて、涙が滲んだ。「ありがとう、香耶ちゃん。」


 香耶は少し照れ臭そうにそっぽを向き、「泣かないでよ、もう!」とそっけなく言ったが、その頬は赤く染まっていた。


 美世が帰り際、真一は彼女に向かって静かに言った。「美世、お前はこれから久堂家の一員だが、斎森家も忘れるな。お前は私たちの家族でもある。」


「はい、お父様。私は両方の家を大切にします。」

その言葉に真一は満足そうに頷き、美世の成長した姿を静かに見送った。


 その夜、美世は久堂家に戻り、清霞にこの日の出来事を伝えた。庭で月明かりに照らされながら、彼は静かに美世を見つめた。


「美世、斎森家ともきちんと向き合ったんだな。」

「はい。時間はかかるかもしれないけれど、これからも少しずつ絆を深めたいと思います。」


 清霞は美世の頭を優しく撫で、「お前は強いな。だからこそ、僕も安心して共に歩いていける。」と微笑んだ。


 美世はその言葉に胸が温かくなり、心からこう思った。

「私には、守るべき場所がある。そして、支えてくれる人がいる。もう何も怖くない。」


家族との絆が再び繋がり、美世は久堂家への嫁入りに向けて、さらに大きな一歩を踏み出したのだった。


 結婚式を翌日に控えた夜、美世は心地よい緊張と期待を胸に久堂家の自室で支度を整えていた。しかし、その静けさを破るように、五道佳斗が急ぎ足で部屋に駆け込んできた。


「美世さん、大変です! 清霞様が緊急の任務で出動されました!」


「えっ? 清霞くんが?」

美世の胸は一瞬にして不安でいっぱいになった。


 五道は眉をひそめ、「霊災が突如として現れたそうです。危険な任務ですが、久堂家の者として清霞様は行かざるを得なかったのです。」


「清霞くんが無事ならいいけれど。」美世は心を落ち着かせようとしたが、どうしても胸騒ぎが止まらなかった。


 その時、ふと美世の中で「鈴の音」が聞こえた。あの、力が覚醒する前に感じた音だ。


チリン、チリン。


美世は息を呑み、すぐに立ち上がった。「私も行きます!」


 五道は慌てて止めようとした。「美世さん、ここにいてください! あちらは戦場です、危険すぎます!」


「いいえ、私にもできることがあるはずです。清霞くんが一人で戦っているなら、私も支えに行かないと。」

美世の目には迷いはなく、五道はその強い意志に折れ、深く頷いた。「わかりました。僕も同行します。」


 夜の闇を裂くように、美世と五道は現場へと急行した。霊災が現れたという場所には、異様な冷気と黒い影が漂っており、すでに軍人たちが必死に応戦していた。


 美世の目の先に、必死に戦う清霞の姿があった。彼は一人、強大な霊災に向かって力を振るっていたが、その姿は疲弊しきっているように見えた。


「清霞くん!」

美世の声が戦場に響き、清霞は一瞬彼女の方を見た。「美世!? なぜここに来たんだ!」


「私も力を使うよ! あなたを一人にはしない!」


 美世は深く息を吸い込み、自分の中にある力を解放した。手のひらから優しい光が広がり、その光は周囲の闇を浄化するように輝き始めた。


 霊災がその光を嫌がるかのように後退し、軍人たちの間に驚きと歓声が広がった。


「美世、お前!」

清霞は美世の姿に目を見張り、改めて彼女の強さを実感した。


「清霞くん、二人でなら、乗り越えられる!」

美世の光と清霞の力が融合し、霊災へと立ち向かう。闇と光がぶつかり合い、最後には清霞が一閃。霊災はついに消え去った。


 戦いが終わり、清霞は美世のもとに歩み寄った。彼の顔には、安堵と驚きが入り混じっていた。


「美世、君は、本当に強くなったな。」


 美世は静かに微笑み、清霞の手を握った。「清霞くん、あなたがいてくれたから私も強くなれたの。」


清霞は少し照れたように笑い、「なら、明日からは一緒に、ずっと隣にいてくれ。」と小さく呟いた。


「はい。」美世の返事は優しく、力強かった。


 二人は夜明けの光を見つめながら、これからの未来を共に歩む決意を新たにしたのだった。


 夜明けが訪れ、美世と清霞の結婚式の日がついにやってきた。前夜の霊災との戦いを乗り越えた二人は、互いの存在がどれほど大切なものかを改めて感じていた。


 久堂家の庭園には、美しく飾られた花々と、清々しい空気が満ちていた。親族や友人、軍の関係者たちが次々と集まり、美世と清霞の門出を祝うために席についていた。


 美世は、ゆり江と香耶に支えられながら、純白の打掛をまとって式場へと向かっていた。鏡に映る自分の姿を見つめながら、胸の中に静かな決意が広がる。


「お姉ちゃん、本当にきれい。」

香耶が小さく呟く。以前の険悪な関係からは考えられないほど、優しい声だった。美世は微笑み、「ありがとう、香耶ちゃん」とそっと手を握った。


 ゆり江も目に涙を浮かべながら、「美世様、どうかお幸せに。これまでの努力が、今日の輝きになりましたね」と言った。


 一方、清霞は五道佳斗に手伝われながら、凛とした姿で式場に立っていた。五道が笑みを浮かべ、「さすが久堂様、今日も威厳がありますね。でも、少し緊張してるんじゃないですか?」と軽口を叩く。


「うるさい。」清霞は小さく返しながらも、どこか柔らかな笑みを浮かべていた。

「今日は、絶対に美世を幸せにする。そのためにここにいるんだ。」


 やがて、美世が式場に現れると、参列者たちはその美しさに息を呑んだ。純白の打掛に身を包み、柔らかな光に照らされる美世はまるで天から舞い降りたかのようだった。


 清霞は美世を見つめ、その目に確かな想いを宿しながら静かに言った。

「美世、君は、まさに僕の希望だ。」


 美世はその言葉に微笑み、ゆっくりと答えた。

「清霞くん、私もあなたと共に生きると誓います。どんな困難が訪れても、あなたの隣に立ち続けます。」


 誓いの言葉を交わす瞬間、庭園に風が優しく吹き、花々が揺れて祝福するように輝いた。両家の人々や友人たちも、涙ぐみながら二人を見つめていた。


 五道が小声でつぶやく。「久堂様も、ついにここまで来たな。」


 鶴木新が笑いながら、「やれやれ、俺も少し寂しい気がするが、まあ、いい日だな」と遠くを見つめた。


 最後に、美世と清霞は互いの手を握り合い、静かに微笑んだ。


「これからも、ずっと一緒に。」

「君を守り続ける。何があっても。」


 その言葉とともに、二人の新たな人生が始まった。参列者の祝福の声が庭園に響き渡り、美世と清霞はこれからの未来に向かって、しっかりと一歩を踏み出したのだった。


 この瞬間、試練の日々は終わり、二人の愛と絆が永遠のものとなった。庭園に咲く花々が風に揺れ、晴れ渡る空がその幸せを見守るかのように輝いていた。(終)

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わたしの幸せな結婚 in My Love 森康雄 @YASU113

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