第6話
月曜日。イベントの楽しかった気持ちが長続きしていて、今日は思わずスキップしそうな感じで学校に行く。
にやにやしていたかもしれない。登校班の副班長は一番後ろを歩くから、だれにも見られなくてよかった。
……湊くん、話しかけてくれるって言ってたな。
ドキドキしながら教室を目指す。だって、前髪をあげた本当の湊くんの顔を知ってしまったから、よけいに緊張せずにはいられない。
教室のドアを開けると、なんだかざわざわしていた。わたしの席の方をちらちら見ている子が多くて、なんだろうと思いながら自分の席を見る。そして気づいた。
みんな、わたしの席じゃなくて、湊くんを見てるんだ!
なんと、湊くんが前髪を切っていたのだ。おかげで、アーモンド型のきれいな目と、ととのった顔がみんなにおひろめされている。
わたしだけの秘密だと思ってたのに、みんなにバレちゃった!
思わず止まっていた足を進めて、自分の席までいく。
「あ、おはよう」
「お、おはよう」
湊くんがあいさつしてくれたけど、なんだかいたたまれないよー……!
何人もの視線がぐさぐさ刺さっている気がする。ふだんしずかな湊くんだから、話しかけるタイミングがつかめないんだろうな。
と、数人の女の子たちがやってきて、湊くんの前にならんだ。
「宮本くん、髪の毛切ったんだね!」
「すごく似合うよ!」
「……うん、さんきゅ」
お礼を言われて、きゃっきゃっとはしゃぎながら、女の子たちは戻っていく。
わたしの席の方には、花ちゃんがやってきた。
「せっかく結菜だけ、仲良しだったのにね」
「き、気づいてたの!? 話してたこと!」
「ふつうに話してたじゃん。気づくよ」
わたしはなんだか、二人だけの秘密の話、みたいに思ってたから、みんなにバレバレだったことに恥ずかしくなってきた。顔や体が熱くなってくる。
「でも、そんなんじゃないから」
「どんなの?」
「ええっと、えっと……」
「宮本くんと話すとき、結芽、楽しそうだけど」
「そ、そうなんだけど……」
花ちゃんがどんどん聞いてくるので、となりの湊くんに聞こえてないか、あせってしまう。
確かに、湊くんと話すのは、花ちゃんと話すのと同じくらい楽しい。それに、占い師の一面も素敵だと思うし、かっこいいし……。
「宮本くん、なんで急に髪切ったの?」
「は、花ちゃん……!」
花ちゃんが急に話しかけていて、びっくりした。
湊くんが顔をあげる。学校で見る湊くんは、イベントのときとはまた違って見えて、どきっとしちゃう。
「……うっとうしかったから。あと、脱皮からの成長」
「なにそれ」
「な、結芽」
花ちゃんは分からなかったけど、わたしはピンときた。カードのキーワードだ。
「う、うん」
「なに二人して〜! 意味深! 秘密の合言葉ー?」
「そ、そんな感じ、になるのかな……?」
カードのことは言うと長くなっちゃうから、ごまかすように言うと、花ちゃんがすねてしまった。
「わたしの結芽なのに!」
「わたしも花ちゃんのこと好きだよ。今日一緒に帰ろ」
そう言ったときだった。
「あ!その顔、休みの日にイベントで見かけたぜ!」
ひとりの男子が、湊くんを指さして言った。
「な、そうだよな、宮本! なんの店やってたんだ?」
男子は近づいていて、湊くんの机に両手をつく。
目立つの嫌がってたから、湊くんいやがるんじゃあ……。そわそわしているのはわたしだけで、周りの子たちもざわめきだす。
「イベント? お店?」
「なんの店だろう」
「宮本くん、教えてよ」
みんなに言われて、湊くんはしぶしぶ口を開く。
「占いの店。母さんの手伝い」
「占い!?」
「えっ、すごい! 湊くんもできるの?」
「おれはできない」
湊くんは、はっきりとそう言った。
占いのこと、秘密にしてって言ってたっけ。
湊くんがすごいことをみんなが知らないのはもったいない気がするけど、わたしだけ特別なままな気もして、なんだかほっとした。
チャイムが鳴って、みんな自分の席にすわっていく。だけど、興味をひいてるみたいで、何人かはちらちら湊くんを見ていた。
「なんか、宮本くんってかっこよくない?」
体育の時間の前、体操服に着替えるときに、目立つ女子グループのひとりが言った。男子とは別の教室だから、ふつうの声で恋バナができてしまう。
「うんうん、髪の毛切ってかっこよくなったよね」
「暗そうだなって思ってたけど、話してみたらそんなことなさそうだし」
「わたし宮本くんのことちょっといいなって思うかも」
女の子たちがそんな話をするのが聞こえてくるので、わたしはあせった。
宮本くん、なんで髪の毛切っちゃったのー!?
宮本くんは変わりたいって思ったから、今まで伸ばしっぱなしにしていた髪の毛を切ったんだろうけど、自分で言ってたとおり目立っちゃってるよ……!
わたしが最初に見つけたのにな、なんて、気持ちがしょぼんとしてくる。
「結芽、落ち込んでるでしょ」
「え、な、なんで?」
「宮本くんがとられちゃうーって顔してるよ」
花ちゃんがにんまりと笑う。
「宮本くんのこと、好きなんだ」
こそっとささやかれた言葉に、顔がぼっと熱くなった。
「ち、違うよ! そ、そんなんじゃなくて、せっかくの友達がとられちゃうみたいな感じで……!」
花ちゃんの言葉がわたしの中でひびく。
宮本くんのことが好き……?
そうかな。そうなのかな。
ほおが熱くて、手のひらを当てた。
「じゃあ、わたしが宮本くんをねらっちゃお!」
「ええ!」
花ちゃんがふざけて言っているのに気づいたけど、一瞬あせってしまった。
もし本当に、宮本くんのことが好きだったなら、応援しなきゃなのかな。そう考えると、胸がちくんとした。
今まで好きになったことがあるのは、足が早くて運動ができる子だったり、みんながかっこいいってさわいじゃうような男の子を、わたしもひっそりいいなって思ってたけど、湊くんは今までと違う気がした。
湊くんが誰かと両思いになって、付き合ったら、と想像すると、息がつまっちゃうような気持ちになった。
だから、これはーー。
ひみつの恋占い 壱 @1desuyou
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