いじめセール

明鏡止水

第1話

「いじめセール? なにそれ」

「『いじめ』を売ってる店のセール」

「まんまじゃん!」


わたしは笑って相手の話に釘付けになる。

ちょうど「イジメたいオンナ」がいたのだ。


派手なギャル。

読書オタ。

体育が苦手でその日は必ず休む運動音痴。

服装が壊滅的にダサい同級生。


ぜんぶ恥ずべきヤツ。

しかも全員同じ幼稚園で育った幼馴染。

ほんと、恥ずべきわたしの汚点。

消えてなくなれ。

つか◯んで。


「あいつら全員犯罪に巻き込まれて◯ねばいいんだよw」


◯されろ!


「うわー、相変わらずジャアクな考えだねー、こわいよ、私のことはおおめに見てよ、そのセールしてる店、教えるからさ」


後ろの席の「友達」の言葉にわたしは冷静になる。


「ん? ナニ、そんな怪しい店に私に行けって? いじめなんてクラス担任どころか校長まで目を光らせてるし内申下がるのノーサンキュー」


わたしの雲行きの怪しさ満点の発言に、友達は珍しくビビらなかった。友達は言う。


「実はさ、対価ってのを払っていじめ、依頼したんだよ、特別安くてほんとにセールなんだって。不景気だから! だから私! 成績トップのヤツの順位落としてください、いじめでメンタルガダガタにして欲しいんです! って頼んだの! そしたらさー、ソイツが通ってる塾で塾講師がソイツにセクハラして。トップのやつ、男性恐怖症でクラスの男子全員にビビるの! 自意識過剰だよね、PTSD?! 一直線かなっ。ライバルガタ落ちでよかったー!!」


なに、こいつの方が性格悪いし。てかさー。


「タイカ、ってなに? 退化?」

「いや、なんか、同等のもの? 同じ重さとかやり取りを経験したり渡したりすればお題はチャラ! 後払いもオッケー。私は後払いなんて怖いからさ、小五の頃靴を何度もびしょ濡れにされてつら〜い思いで帰った事を対価に積み立てたの! 安いもんだわ〜、その時の犯人がたぶんトップだったヤツ、って言われてたし、実際テストの点数とか成績の順位でイジってくるからざまあっwって感じ」


そう。


でもね。

私もその店で「いじめ」買ったことがある。

これからは、あんたがいじめられる。


あんたさ、よく後ろの席からシャープペンシルでわたしの背中刺すじゃん。椅子蹴ってくるじゃん。学校も知ってるから。あんたの所業。

あと、オプションもあるんだよ。その店。

この身に降りかかる幸福を実感できなくなる代わりに、対象の「いじめ被害者」様が依頼をどんどん加速して払っていく、っていう。


悪行の雪だるまコース。


これからわたしは、志望校に合格しても、恋をしても、結婚しても、海外旅行も綺麗なホテルのモーニングも、我が子の誕生も、なんっにも!!

実感も感動もできないけど。


あんたにいちばん、人生でイジメに遭って欲しいんだよね。


私の妹に、オーバードーズ教えたあんたには。


妹さ、生きてるけど、もう帰らぬ人だよ。心が帰ってこないんだから。

だから、わたしの幸福なんて、いいの。


あんたさ、これからいじめセールに遭った子の何倍も辛い目に遭うよ。


その度に慰めて、アンタが人生から逃げないように見張ってるからな。

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いじめセール 明鏡止水 @miuraharuma30

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