放課後、いつものダンジョンにて
赤茄子 苫斗
プロローグ
「やっと出てきたか…大回廊エリア特別討伐対象、執行者モルデルセッド!」
積石造りの回廊の中、進行方向の闇の中から巨人が現れる。醜い体格で顔は麻袋に覆われ、鈍色の皮膚の各所には杭が突き刺さっている。左手に持つ金銀の装飾が施された大剣は、移動に伴って石畳の表面を引っ掻き、絶えず火花を散らしている。
「大回廊エリア一帯を絶えず移動し、遭遇した侵入者を幾度となく撃退してきたエリアボス…てめえをブッ殺した報奨金は、ありがたく高級PCの費用に回させてもらうぜ」
醜き巨人が咆哮を上げ、それに伴って鈍色の肌から緋色の霞が立ち昇る。ウォークライ系統のバフか。
大剣の間合いまで近づくつもりだろう、右手に大剣を持ち替え、その肥満体型が嘘のように走り寄ってくる。
〈召喚:蛮兵の
ポーチより、血濡れたように赤黒い刃の両手斧を召喚、さらに『蝗跳躍』スキルを発動し、巨人の目の前まで一気に距離を詰める。狙うは頭部への一撃、肩越しに振りかぶった大斧を落下の勢いを載せ振り下ろす。
「貰っ…何!?」
右半身を後退させ、巨人は斧を数センチの所で回避した。見れば麻袋に空いた穴から小さな右目が見えている、盲目とばかり思っていたが少々厄介だ。それにあれはギリギリの回避ではなく、完全に武器の挙動を読んだ上での余裕ある動き…特別討伐対象の称号は伊達じゃなさそうだ。
三日月斧をポーチへ送還、着地と同時にバックステップ。直前まで立っていた場所へ巨大な処刑剣が振り下ろされ、そうそう壊れないダンジョンの石畳を叩き砕く。
「すげえ、あれ食らったら一発で退場だな」
さらに左拳で壁を破壊し、その破片を掻っ攫って投げてくる。一つ1tはありそうな巨石が不規則な挙動で転がってくる様子にはかなりビビるが、直前に避けさえすれば当たることはない。
〈召喚:蛮兵の三日月斧〉
次に狙うのは足、アキレス腱だ。ダンジョンの怪物は厳密には生物とは異なる概念の存在だが、その身体構造は似た形の生物と酷似している。故に足にも腱があるし、ぶった斬ればそいつは立てない。
背後まで回ろうと接近するが、何かに躓き転ぶ。タイミングが悪すぎる、すぐに起き上がって体勢を立て直せ…ない。
「クソ、いつの間に!」
左足が無くなっていた。背後を見ると、無理やり地面に突き立てられた大剣が青の輝きを帯びている。杖の代わりに剣が魔術を展開し、魔法の刃が草刈り機のように脚を薙ぎ払ったらしい。まさか魔法まで使えるとは…抜かった。
巨人が、肩越しに大剣を構える。
それはまさしく
侵入の罪を犯した探索者に対する、断罪の一撃なのだろう。
…強烈な太陽光が瞼越しに瞳孔を襲撃し、目の奥に響くような痛みで目が覚めた。ダンジョン入り口横、探索者達は生死を問わず、ダンジョンから帰還するとここで目覚める。
「ミスった〜、特別討伐対象舐めてたわ」
装備は全ロスだが…仕方ない。武器のストックも余るほどあるし、気を取り直してまた潜ろう。
「貴方、やられちゃったの?」
鈴を転がすような美声。間違いなく俺に向けられた言葉だが、突然話しかけられたせいで咄嗟の返事が思いつかない。
しかし、この声どこかで聞いたような…と、無意識に顔を上げる。
「おまっ、いや…アンタは…」
「『執行者』モルデルセッド、討伐報酬100万円…協力してくれるよね?深上君」
そこに居たのは、クラスメイトの一人。赤の髪留めがシンボルマークの女、高本キョウカの姿だった。
放課後、いつものダンジョンにて 赤茄子 苫斗 @popopopopopopopopopopopopo
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