招待状

ソコニ

第1話

祖父が孫娘を遊園地に連れて行こうとした日のことだ。


「パパとママは、いつもスマホでチケットを取るの」


孫娘が教えてくれた。祖父は額に汗を浮かべながら、初めて触るスマートフォンと格闘していた。


「次は指紋認証です」

「顔認証をお願いします」

「好きなキャラクターを選んでください」

「思い出の写真をアップロードしてください」


案内が次々と表示される。一つでも間違えると、最初からやり直しだ。


「おじいちゃん、早く早く!」


焦る孫の声に、祖父の手の震えは大きくなる一方だった。


そこへ、案内所から老人が一人、追い出されるように出てきた。懐中時計を大事そうに握りしめている。


「紙の切符では入場できないそうです」と、肩を落として言う。


その老人の隣に、また一人。そしてまた一人。スマートフォンを持たない人々が、次々と夢の国の入り口の前に立ち尽くした。


「私たちの若い頃は、空想だけで楽しめたものですがね」


老人たちが口々にそうつぶやく中、突然、遊園地の巨大なスクリーンが消え、代わりに手書きの文字が浮かび上がった。


『本日、システムメンテナンスのため、すべてのデジタル機器を停止いたします。どうぞ、アナログな夢をお楽しみください』


警備員が慌てて走り回る。デジタルチケットを手にした若い家族たちが困惑する。


その時、老人の一人が懐から古ぼけた紙切れを取り出した。


「これは...40年前の開園記念チケット」


遊園地のスピーカーから、アナウンスが流れる。


『ご来場のお客様へ。本日限り、創業当時のチケットをお持ちの方を特別ご招待いたします。また、そのようなお客様と一緒にいらっしゃる方も、無料でご入場いただけます』


孫娘の目が輝いた。


「おじいちゃん、私たち、特別招待客なの?」


祖父は古い切符を握りしめた老人たちと顔を見合わせ、思わず微笑んだ。


夢の国は、この日だけは少し違う魔法に包まれていた。


(おわり)

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