【短編】ファタ モルガナ 核兵器無き世界へ
🌳三杉令
第1話 モルガナ:美穂と可夢偉(カムイ)
西暦2070年、日本。高級マンションの一室。
TVでキャスターが早口でしゃべりたてる。
「臨時ニュースをお伝えします。本日の正午頃、エルケーア連邦の首都近くで大きな爆発がありました。その後、ユーロニアの過激派組織から犯行声明が出されました。戦術核兵器による試験的攻撃を行ったとのことです。爆発があった一帯は壊滅的な被害を受けています。繰り返します……」
「ついに始まった……」
美穂と可夢偉が部屋にいる。美穂は美貌と抜群のスタイルと頭脳を合わせ持つ二十四才の女性で、秘密結社ファタ・モルガナ(略称モルガナ)の次期リーダー候補でもある。ついにこの時が来たと美穂は思った。
「デール(エルケーア国首相)の自作自演だな」
「いよいよね」
可夢偉と美穂が簡単な言葉を交わす。
美穂は冷徹な表情でニュースを見ていたところ、部屋の中の赤く点滅し始めた通信装置に気がつきコマンドを出す。
「Turn-on」
声に反応して通信がONになる。女性の声が美穂を呼ぶ。
『ミホ?』
「いいわよ、フェイ」
それに……どちらもいい声をしている。
『ニュース聞いた?』
「ええ、今」
『ついに始まった。美穂、あなたのモルガナのリーダーとしての試験が始まったからね。デールの核攻撃を阻止して。モルガナの使命だからね』
「フェイわかってる。手順は決めてあるわ」
『カムイはどう使う?』
「F75に搭載できる対ミサイル用のEMP弾を開発してくれたわ。彼自身に飛んでもらう」
『空中で弾道ミサイルを叩くのね』
「Yes、最悪の場合だけど。まずは基地を叩いてもらうわ」
『了解、頼んだわよ』
通話が切れると美穂は長い髪を後ろに流し、鋭い碧い瞳で
「こちらはオプションBにしましょう。EMP弾は何発積める?」
「75発。足りるだろ」
「デール次第よ。どの程度本気か」
「オプションBだと美穂次第じゃん。基地潜入は大丈夫? 付き添おうか?」
「冗談!」
いきなり美穂が回し蹴りを可夢偉に見舞う。足首からは飛び出しナイフが出ている。美穂の振り上げた脚先のナイフが可夢偉のグラスファイバーの手甲に当たり金属音がした。
「いや、おまえの実力は十分わかってるって。脚上げるなよ。油断してたら顔が切れちまうだろ」
「寸止めだから大丈夫よ」
「大丈夫じゃねえよ」
美穂が微笑みながらゆっくり足を降ろす。可夢偉が美穂に手伝いを申し出る。
「エルケーアの中央システムへの侵入、手伝おうか?」
「いいえ、私一人で十分。可夢偉はF75のセットアップ急いで。明日決行よ」
「はいはい」
「質問が二つ。この仕事が上手く終わったらボスのフェイ嬢はモルガナを引退して、代わりに美穂がリーダーになるのか?」
「リーダーは私に引き継がれるけど、フェイが引退するとは聞いていないわ、なぜ聞くの?」
「彼女の正体を知りたい」
「気になるんだ?」
「まあね。お前もだろ」
「いいえ、全然」
「嘘だ」
美穂はニヤリと笑った。
「二つ目は?」
「やつらのシステムセキュリティの切り札がヘイズってやつだ。精巧なアンドロイドも作れるし、今やデール首相の右腕だ。知ってるか?」
「名前くらいは」
「とにかくやつには気をつけろ。俺も正体は知らないが凄腕であることは確かだ」
「たいしたこと無いわ、腕はどうせあなたと同じ位なんでしょ」
「どうせって……言ってくれるね。まあな」
「もしかして、私を心配してくれてるの?」
「ああ、一応、美穂は俺の兄の命の恩人だからな。それにエルケーアはスパイに容赦がない、捕まったら即射殺されるから潜入後はくれぐれも気をつけろよ」
「大丈夫よ、私を誰だと思っているの? モルガナのミホよ」
美穂は微笑んだ。可夢偉は首をかしげてから出て行った。
美穂には十八才までの記憶が無い。可夢偉に聞いた話だと、美穂は中学生くらいの時に、家族とエルケーアに住んでいて、近所に住んでいた可夢偉(カムイ)の家族とも関係があった。
ある日、男と兄が二人だけで家にいる時に、男は兄にひどい暴力をふるっていた。そこへ怒鳴り声を聞いた美穂が一人で駆けこんで、男と格闘した。双方流血の上、美穂は既に当時から得意だった回し蹴りで男を気絶させた。美穂は頭から血を流しながらも可夢偉の兄を助け出したのである。
やがて美穂はフェイという人物に導かれて加入したファタ・モルガナという組織で、久しぶりに可夢偉と再会した。可夢偉に聞くと、その後彼の家族は離散し、可夢偉はやはりフェイに誘われてモルガナに加入したということであった。そこで特殊部隊さながらの兵士としての訓練を受けたのである。
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※本作品は3話、約8千字で終わる短編です。
12/17(火)~19(木)の11:11AMに公開します。
お楽しみに!
次の更新予定
【短編】ファタ モルガナ 核兵器無き世界へ 🌳三杉令 @misugi2023
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